日本で最初の「正史」(国が編纂〈へんさん〉した歴史書)として知られる「日本書紀」。最新の研究成果をもとに、成立と変遷を考えた論文集『日本書紀の誕生――編纂と受容の歴史』(遠藤慶太・河内春人・関根淳・細井浩志編、八木書店)が刊行された。
執筆しているのは、古代史を中心に古典文学、神道学などを専門にする研究者21人。
「総論」「日本書紀の前史」「日本書紀の成立」「日本書紀の受容と展開」の4部構成で、律令国家の史書として8世紀に成立した同書が、何を下敷きに編まれ、中世にどんな風に変容を遂げたか、丹念にたどる。
戦後、神代(かみよ)を中心に、記述の信憑(しんぴょう)性がしきりに議論されてきた同書だが、「今我々が目にする『日本書紀』は古代に成立したそのものではなく、中世から現代に至るまでの様々な経緯をふまえて伝わった」という「序」の記述には、改めて目を開かされる。
本書の最大の特徴は、短い文章の中に研究史のエッセンスを詰め込んだ荊木(いばらき)美行の「日本書紀研究の現在」、「古事記」との関係を結論づけた遠藤の「古事記と帝紀」、現存しない「系図一巻」をテーマにした河内の「日本書紀系図一巻と歴史意識」など、コンパクトながら意欲的な論文を数多く収録していることだろう。
だが、一方で「熱田本」など、近年の日本書紀研究の推進力の源になっている写本のカラー写真を口絵で掲載したり、これから日本書紀を勉強しようとする人向けの文献目録を載せたりするなど、入門者への目配りも欠かさない。学術書には珍しく、一般の人でも楽しめる一冊だ。(編集委員・宮代栄一)=朝日新聞2018年6月27日掲載
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