「テレビは総理を殺したか」書評 視聴率競争に巻き込まれた政治
評者: 江上剛
/ 朝⽇新聞掲載:2011年03月20日
テレビは総理を殺したか (文春新書)
著者:菊池 正史
出版社:文藝春秋
ジャンル:新書・選書・ブックレット
ISBN: 9784166607945
発売⽇:
サイズ: 18cm/251p
テレビは総理を殺したか [著]菊池正史
本書に巻かれた帯が衝撃的だ。小泉純一郎元首相から菅直人首相まで6人の首相の顔写真が並び、そこに彼らの寿命(在任期間)が表示されている。小泉氏の5年5カ月を筆頭に、きれいに短くなっている。さて菅首相はどうなるのだろうか?
彼らの寿命を決めるのはテレビとの関係と著者は言う。テレビを最初にうまく利用したのは小沢一郎氏だ。政治改革論争が盛り上がった際、「改革派VS.守旧派」の二極対立構図を打ち出した。テレビはこの「わかりやすさ」に飛びついた。テレビは営業収入を上げるために、ニュースにも視聴率が求められていたのだ。政治は視聴率競争に巻き込まれていく。視聴率が上がれば続報を打ち、下がれば打ち切るようになる。
二極対立構図を最大限に活用したのは小泉氏だ。彼はテレビの嗜好(しこう)を知りつくし、お茶の間を独占し続け、寿命を延ばす。
歴代の首相たち、そして小沢氏のテレビに対する態度がどのようなものであったかが生々しく描かれ、興味が尽きない。またテレビの役割と視聴率に踊らされるテレビマン、そして視聴者である私たちにも反省を迫る好著だ。
江上剛(作家)
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文春新書・956円