若者文化のジャンル確立
サブカルチャーとして若者文化が盛り上がった1960年代。マンガの世界にとっても、週刊少年誌や少女誌、そして青年マンガ誌という新たなメディアが次々と登場した重要な時期だ。この頃に創刊した雑誌たちの50周年を記念した展示企画が、ちょうどこの数年、相次いでいる。
今年、創刊50周年を迎えたのが、マンガ史上の重要な雑誌の一つ、「ビッグコミック」(小学館)だ。この6月から、そのあゆみを振り返る「ビッグコミック50周年展」が京都国際マンガミュージアムで開かれている。
同誌が産声を上げた時期には、ほかにも少年画報社の「ヤングコミック」(67年創刊)や秋田書店の「プレイコミック」(68年創刊)など、「コミック」を誌名に掲げた青年マンガ誌が続々と登場した。まだ「マンガ」という言葉に、「子供の読み物」のイメージが強かった時代。「コミック」という言葉には新しい若者文化としてのニュアンスが込められていた。
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一方で、「ビッグコミック」創刊号を飾った作家たち――手塚治虫、石森(石ノ森)章太郎、さいとう・たかを、水木しげる、そして白土三平――と作品に注目すると、「ビッグコミック」が他の様々な青年「コミック」誌とは趣の異なる誌面を作っていたことがうかがえる。
このそうそうたる顔ぶれは当時、若者の人気を集めつつも、それぞれ物語性や表現技法で新しい形を模索していた作家たちだった。それは創刊号の巻末に寄せられた、おのおのが意気込みを語る言葉にも表れている。そうした創刊時の気風は、「ビッグコミック」が青年マンガの一つの方向性を切り開いていくとともに、やがてこの雑誌を成熟した大人向けの作品を紡ぐ場へと導いていくこととなる。
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展示では、こうした「ビッグコミック」50年の歩みを、誌面を飾った数々の名作の原画・複製原画とともに紹介している。梶芽衣子主演で映画化されて話題となった篠原とおる「さそり」のように、他のジャンルとも結びつきながら若者文化を象徴するムーブメントとなった作品があれば、藤子・F・不二雄「ミノタウロスの皿」やちばてつや「のたり松太郎」、藤子不二雄(A)「黒イせぇるすまん」のように、作家が「ビッグコミック」という場で青年向けの表現に挑戦し、作品の幅を広げた記念碑的作品も並ぶ。
一ノ関圭「茶箱広重」や谷口ジロー「犬を飼う」は、成熟した大人の読者のためのドラマともいうべき、忘れがたい中短編。林律雄原作・高井研一郎作画「総務部総務課 山口六平太」や、さいとう・たかを「ゴルゴ13」は世代を超えて愛され、多くの読者に支持され続けた長編だ。さらには山本おさむ「どんぐりの家」のように社会派のテーマを真摯(しんし)に描き出した作品や、ダークヒーローが活躍する細野不二彦「ダブル・フェイス」のような痛快作も。さながら青年マンガというジャンルの幅の広さを映し出すショーケースのようだ。また、現在進行形の姿を示すものとして、石塚真一「BLUE GIANT SUPREME」など、連載中の作品も多数出展されている。
青年マンガ誌というジャンルのありようをいち早く確立したがゆえに、後にはしばしば「保守本流」というイメージで語られもした「ビッグコミック」。だが、あらためて創刊号から現在までの数々の名作を通して歴史を見つめ直すと、同誌が“戦後マンガ”という樹(き)に彩り豊かな果実=作品を実らせてきた、ひとつの大きな枝を成していたことが浮かび上がってくる。=朝日新聞2018年6月29日掲載