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祝「ズッコケ三人組」40周年!那須正幹さんが語る“ズッコケイズム”

文:岩本恵美、写真:斉藤順子

 1978年刊行の『それいけズッコケ三人組』にはじまり、中年になった三人が活躍する中年シリーズ完結版『ズッコケ熟年三人組』に至るまで、全61作という超ロングシリーズとなった「ズッコケ三人組」シリーズ。
 いつも元気いっぱいだけどちょっと落ち着きのないハチベエ、物知りで勉強も好きだけど学校の成績はイマイチなハカセ、体は大きいけれど気は優しいモーちゃん。小学生のころ、この三人に夢中になった人は多いだろう。

 2018年8月、シリーズ誕生から40周年という節目を記念し、懐かしい三人に会える「ズッコケ三人組同窓会」が東京・渋谷で2日間にわたって開催された。
 「ズッコケ三人組」シリーズの表紙イラスト複製原画などの展示、物語に登場するズッコケあるある的なフォトスポットでの撮影が楽しめるほか、クイズ大会やビブリオバトル大会など、さまざまなイベントが盛りだくさん。

毎朝トイレでドリルをやるのが日課のハカセ。眼鏡をかけてトイレに腰掛ければ気分はハカセ!?
毎朝トイレでドリルをやるのが日課のハカセ。眼鏡をかけてトイレに腰掛ければ気分はハカセ!?

 なかでも注目は、AKB総選挙ならぬ「ズッコケ50巻総選挙」だ。小学生時代のズッコケ三人組シリーズ全50巻の中から人気投票でナンバーワンを決める。
 同窓会最終日には、著者の那須正幹さんと作家でズッコケの大ファンだという辻村深月さんとのトークショーが行われ、その結果が発表された。

 ベスト10の結果はこちら。2位と600票以上の差をつけ、圧倒的多数で『うわさのズッコケ株式会社』が1位となった。

ズッコケ50巻総選挙ベスト10

  1. 『うわさのズッコケ株式会社』
  2. 『参上!ズッコケ忍者軍団』
  3. 『あやうしズッコケ探険隊』
  4. 『ズッコケ時間漂流記』
  5. 『ズッコケ山賊修業中』
  6. 『それいけズッコケ三人組』
  7. 『ズッコケ三人組の未来報告』
  8. 『ズッコケ三人組と学校の怪談』
  9. 『ズッコケ家出大旅行』
  10. 『ズッコケ三人組対怪盗X』

 『うわさのズッコケ株式会社』は、三人がお弁当会社を設立してお金を稼ぐ話。株式の配当や会社経営について、この本で知ったという読者も多いはずだ。

 この結果に、「『株式会社』は昔から人気があったからね。これは子どもが金もうけをするという、当時の児童文学ではタブーだった話を堂々と書いた作品。そういう意味では、僕も『やったー!』と思っていますよ」と那須さん。

「これを書く時は商法の本など10冊くらい読んだかな。でも、作中に出てくる売上金などの計算が間違っていて、編集者が全部直してくれたよ(笑)。この本を読んで、起業して社長になったと手紙をくれた人もいますね」と作品の思い出を振り返る。

 那須さんにとって思い出深い作品は何かと尋ねると、『ズッコケ(秘)大作戦』を挙げてくれた。

「どれも自分の子どものように大事な作品だけど、これは北里真智子という、嘘をつくのが上手な少女像を作り上げられたのが思い出に残っていますね。児童文学では嘘をついても最後には反省するもの。ああいう嘘をつき続けるキャラクターはそれまでいなかったから。新しい子ども像というか、いろいろな子ども像を描いてみたいなというのがあって、ある意味こうした実験作をやって、僕の創作の領域は広くなったとは思います」

 小学生シリーズだけでも50作と多作。その話のネタはどこからくるのか。

「よう聞かれるんだけどね、自分でもわからん。無意識のうちにアンテナを常に張っとるんだと思います。まあ、人の書かないものを書こうっていうのは常にあったな。後追いはしたくなかった。『怪盗X』は江戸川乱歩へのオマージュみたいなところがって別だけど。だからあの作品だけは唯一続編があるんですよ」

 読者からのリクエストで書いた作品もある。『花のズッコケ児童会長』や『ズッコケ家出大旅行』。『ズッコケ家出大旅行』は、「那須先生に会いに行きます」と書き置きを残して家出した子の話がヒントとなった。

「読者とのキャッチボールによってできた作品たちですね」と那須さん。自身もかつて手塚治虫にファンレターを送り、返事をもらった。「学校で見せびらかしていたら、なくしてしまったんだけどね(笑)」。そんな経験もあり、ファンレターには必ず返事をするそうだ。

「シリーズが始まった当初はハチベエが人気でした。でも、今はホッとすると、モーちゃんが人気。子どもの世界でも癒し系が人気なんですね。それと、あんな友達関係がうらやましいというファンレターも多い。今の子は人間関係に疲れているのかもしれませんね」

 ファンレターへの返事だけでなく、ズッコケシリーズを通してここだけはブレてはいけないというこだわりもある。

「説教しないこと。ズッコケの作品はごっこ遊びの世界なんですよ。子どもにできないことを体験させる。現実の世界ではできないことが物語の中ではできる。だから自由に遊べるわけで、読者はそれをワクワクしながら三人組の後を追いかけるんですよね。『児童文学はこうあらねばならない』『子どもはこうあらねばならない』っていう、そういう枠を取っ払った中で三人が元気に駆け回る。きっとそれが子どもたちにも伝わっていたんじゃないかなという気がします」