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学校以外の「居場所」を探そう 約10年間不登校だった若手起業家・小幡和輝さん

文・写真:五月女菜穂

――小幡さんご自身、約10年間の不登校の経験があります。

 「なぜ」と言われてもはっきりとした理由があるわけではないのだけど、幼稚園の頃からなんとなく集団生活に違和感があって。決められた時間に決められた行動をとらなくてはいけない理由が僕には分かりませんでした。

 小学校2年生の時に、「3引く5」を「マイナス2」と僕は答えました。「小幡君は難しいことを知っているね」と歓声が上がるのではないかと思ったからです。でも、小2の時は「マイナス」という概念がないから、僕の答えはまるで異世界の言葉で意味不明だったのでしょう。みんな全くの無言になってしまって。他人よりも物知りなことが「悪」みたいな状況に戸惑って、段々と学校に行くのが嫌になりました。その後、同級生に殴られたことが決定打になって、不登校になりました。

――『学校は行かなくてもいい』では他の方の経験もふんだんに書かれていますね。

 不登校を経て、高校生で起業して、今こうして楽しく生きていると、「小幡さんだからでしょ」と言われるのですが、それはあまり良くないことだなと思っていて。確かに僕に憧れてくれる人はいると思うのですが、逆に僕が輝きすぎることで「自分には無理だ」と思う人も当然いるはずなんです。

 僕と全然違う理由で不登校になっている子もいます。僕の体験は一つの参考でしかないし、別に僕が「将来こうなっているからみんなも大丈夫だよ」というつもりもあまりない。不登校から、あまり言葉は好きではないですが「社会復帰」する人は、学校以外の「居場所」があって、そこで何か得意なものや好きなものを見つけて、それが仕事につながっていくというパターンが圧倒的に多い。そういう人たちの事例を、論文のようにまとめました。なので、人によって刺さるポイントは違うと思います。

――あえてご自身の経験を一部漫画として入れたのはなぜですか。

 やはり不登校の当事者の人に読んでもらうためです。この本は本人が買うというより、親や周りの人がプレゼントする方が圧倒的に多いと思うので、最初に読んだ時に漫画だったら分かりやすいかなと思って。

――「子どもが不登校になったらすごく心配だと思います。決められたレールを外れて、それからどうなるのか。僕は本当に無理をしてまで学校に行く理由がわかりません。学校に行かなくてもちゃんと生きていけます」「一度、固定概念を捨ててみてください」などと、保護者へのメッセージも書かれていました。

 はい。親が最初に理解してくれないとどうしようもないと思っているからです。僕が不登校だった当時、父は中学の先生でした。今振り返ると、申し訳ないなぁと思います。小さい町でコミュニティも狭かったので、僕が不登校になったら、父の生徒みんなが知るんです。当時はすごく喧嘩をしましたが、今振り返ると、その状況でずっと授業をしていた父は大変だっただろうなぁ。

不登校が増えれば、「子どもの自殺」も減るのでは

――9月1日は子どもの自殺が多い日と言われています。

 きっと命を絶ってしまう子というのは、学校に嫌々行っていて、でも家にも、どこにも居場所がない子で、居心地がいい夏休みが終わるのがつらいというパターンが多いのではないかな。だから僕は、居場所がある不登校の数が増えたら、自殺は減るのではないかと思っています。

 この本を先生にもぜひ読んでほしいです。今の学校は全ての多様性を受け入れきれていないと思います。これだけ学校以外で学べる環境があり、学校に行かずとも人生楽しく生きている人がいる。その上で、なぜ学校行かなくてはいけないのか、先生は自分の言葉で語れるようになってほしいです。単純に「義務教育だから」「みんな学校に行っているから」というのは思考停止でしかない。これは僕なりの社会に対する問いなのです。

――「『居場所』があれば、命を絶たずにすむ。不登校でもいい」ということですね。

 僕は不登校の子を増やしていいと思うんです。「不登校が増える」ということは確かに問題かもしれないけど、それは今の学校をベースに考えているから。勉強とコミュニティという学校の役割をちゃんと代用できていればそれでいい。学校以外でも、例えばオンラインでも勉強できるし、いくらでもコミュニティがあるわけですから、学校以外の学びをちゃんと認めたり、広めたりしていくというのは必要なことだと考えます。

 確かに簡単にできることではありません。例えば格差の問題。一律で教える学校の勉強を自分でやるとなると、一般的にお金を持っている家庭の方が教育効果が高くなるので、格差が生まれるため、課題はあります。それに、僕はずっと言っているのですが、不登校であることは、決して楽な道ではないです。「学校がいろいろ教えてくれるのを全部自分でやる。それは大変じゃん」と伝えます。でも、本当に学校がつらいんだったら、不登校という選択肢もある、と。

 僕の場合は、決してお金持ちの家庭ではなかったけれど、母が専業主婦でいられるぐらいの余裕はありました。母はそばにいていろいろな所に連れて行ってくれるし、近くに住んでいる不登校のいとことも一緒にゲームをするようなつながりがあって、家に常に一人でいるという状況ではありませんでした。学校以外のコミュニティや居場所が常に周辺にあったことは、振り返っても良かったと思います。

――話し相手がいないような子たちはどうすればいいのでしょう?

 まず、コミュニティを見つけにいくことが大切です。周りに受け入れてくれる大人はたくさんいます。例えば、プログラミングに興味があるなら、フリーランスのプログラマーのところに遊びに行って交流したりしてみてほしい。プログラミングだけでなく、ゲームでも、本でも、音楽でも、なんでもいいです。フリースクールに行ってもいい。とにかくつながりを絶やさないということが大切だと思います。

 当たり前なのですが、子どもはどうしても視野が狭くなってしまう。学校の評価である、運動ができるか、勉強ができるかという2つがすべてだと考えている。もちろんできる方がいいですよ。でも、社会に出たらそんなに関係ないし、それよりももっと大切なことがある。子どもたちに「視野を広く持て」と言っても、なかなか持てないので、先生や周りの大人がきちんとサポートしてほしいです。

#不登校は不幸じゃない

――8月19日に「#不登校は不幸じゃない」と題したイベントを開催されました。全国100か所で同時開催、全体で1500人ほど集まったそうですね。どういうきっかけで始められたのですか?

 もともと僕は「不登校でもいい。つらかったら逃げていい」ということを、自分の経験談としてブログで書いたり、講演会で喋ったりしていました。昨年『不登校から高校生社長へ』という本を書いた時に、クラウドファンディングをして、その本を日本中の学校に配ったんですよね。そうしたら、現場の職員などいろんな人からメッセージをもらいました。不登校に悩んでいる人は思ったよりも多いと感じました。

 その時、文部科学省が「不登校を問題行動と判断してはならない」という通知を出していることを知りました。文部科学省が言っているのなら、公式に不登校という選択肢が認められているのではないか、もっと堂々と言っていいのではないかということで、一番最初にツイッターで、イベントをやりたいと呼びかけました。

 この時、内容は何も決まっていなかったのですが、初日に東京だけでなく全国各地100人ほどから「何か手伝いたい」というメッセージをもらいました。僕は地方の方が、フリースクールの数がそもそも少なかったり、人口1万人ぐらい以下の街だと小学校と中学校が基本一緒で9年間コミュニティが変わらなかったりと、課題が多いと感じています。不登校になったことが一瞬でその町に知れ渡ってしまい、外に出にくくなるんですね。

 そういう現状は変えていった方がいいなと思って、東京だけではなくて、全国各地でイベントを同時開催することにしました。8月19日に無料でやることと、もともと不登校の経験がある人か、家族が不登校など不登校の気持ちがわかる人たちが主催チームにいること。その2点だけ条件にしてあとは縛りをかけずに、5人とか10人とか小さな規模でもいいから各地で主催して欲しいと呼びかけました。そうしたら、規模が拡大していきました。

――イベントを終えられて手応えは感じられましたか。

 反響がすごかったですし、当日は楽しかったです。各地の主催チームの人たちが頑張ってくれて、僕は何もしていないのですが、やってよかったなと思いますね。

なぜ学校に行かなくてはいけないのか、改めて考えるきっかけに

――最後に改めてこの本をどんな人に読んでほしいですか。

 僕の目標の一つは、この本を読書感想文のための課題図書にしてもらうこと。学校に来ている子たちにも考えてほしいんです。これだけ学校に行かずとも学べる手段があるのに、なぜ君は学校に行っているの、なぜ学校に行かなきゃいけないのということを改めて考えることはすごく価値があると思う。

 もしもクラスに不登校の子がいた時に、すごく優しくなれると思うんですよね。少なくとも「ずる休み」と言う言葉はなくなると思う。不登校について、どう対応したらいいのか分かっておいてほしいし、改めて自分たちにもなぜ学校行かなくてはいけないのかを考えるきっかけにしてほしいです。