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ぴりりと刺激的なミステリー 池澤春菜さんが薦める文庫3冊

池澤春菜が薦める文庫この新刊!

  1. 『セブン・シスターズ 影の歌姫』(上・下) ルシンダ・ライリー著 高橋恭美子訳 創元推理文庫 各1512円
  2. 『第四の扉』 ポール・アルテ著 平岡敦訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 907円
  3. 『菓子屋横丁月光荘 歌う家』 ほしおさなえ著 ハルキ文庫 691円

 今週は軽いほのぼのから、どっしり濃厚まで、夢中になれるミステリー仕立ての3作をご紹介。

 (1)血のつながらない7姉妹が順番に主人公となる〈セブン・シスターズ〉シリーズの2作目。今作の主人公、次女のアリーは、優れたフルート奏者にして、プロのヨット乗り。最愛の父の死を懸命に乗り越えようとするアリーを、更なる悲劇が襲う。失意の中、父の残したメッセージを追ってノルウェーを訪れた彼女を待っていたのは、世界的に有名な作曲家と謎の歌姫との秘められた物語だった。現代と過去を行き来しつつ進む壮大な物語、一つずつ明らかになっていく過去、アリーの傷ついた魂の再生。2度目の悲劇がショックすぎて、しばらく呆然(ぼうぜん)としてしまったけれど、その後は一気呵成(いっきかせい)。畏(おそ)るべきページターナーな上下巻!!

 古典ミステリーへのオマージュに満ちた(2)。作者はディクスン・カーの熱烈なファン。カーへの尊敬をこめた、密室殺人、不可能犯罪、限られた登場人物に、超自然的な舞台仕立て……だからといって、けして古くさいわけではない。ミステリーのお作法を守った運びは、今読んでも小気味よい。そして、全てをひっくり返す第三部。わずか12ページのこの幕間で読者は度肝を抜かれ、さらに最後の1行でとどめを刺される。茫然(ぼうぜん)自失から立ち直ると、猛烈に2周目を読みたくなる。急転直下のまさか?!→なるほど!!に、やみつきになりそう。

 重厚&重層、ぴりりと刺激的な2作品に続いて、ほのぼの温かな(3)。「活版印刷三日月堂」シリーズが好評の作者の新作は、やはり川越が舞台。家の声が聞こえる不思議な力を持つ青年を軸に、過去と現在が緩やかに交錯していく。心に傷を負い、人と関わらないように生きてきた守人だが、縁あって築70年の古民家の管理人をすることに。川越という街並み、そこに流れる穏やかな時間、古いものの美しさ、人の繋(つな)がりの豊かさ。読み終わった後、本を片手に川越を歩いてみたくなるファンタジー&ミステリー。(声優・コラムニスト)=朝日新聞2018年9月1日掲載