「紛争地の看護師」書評 傷ついたまま放置しはしない
評者: 齋藤純一
/ 朝⽇新聞掲載:2018年09月22日
紛争地の看護師
著者:白川 優子
出版社:小学館
ジャンル:ノンフィクション・ルポルタージュ
ISBN: 9784093897785
発売⽇: 2018/07/06
サイズ: 19cm/271p
紛争地の看護師 [著]白川優子
著者は「国境なき医師団」の手術室看護師。手術室全体の管理・運営に携わることもある。2010年以来これまで17回の派遣に応じてきた。イラク、シリア、南スーダン、イエメン、パレスチナ(ガザ地区)。派遣先のほとんどは、いつ終わるか先が見えない内戦などの紛争地域である。
著者が経験してきた困難は想像をはるかに超える。近辺への爆弾の投下、点滴不能になる50度を超す気温、屍体の浮かぶ川からとった飲み水。テルアビブ空港での屈辱的な嫌がらせ。任地を離れ帰国しても、交感神経の混乱が招く呼吸困難と付き合わなければならない。
一方で、傷ついたまま放置しはしないということを身を以て示す活動、他方で、その懸命の活動をも標的としてはばからない軍事行動。この落差は、そもそも何が冷酷な攻撃や支配を正当化しているのかについて考えさせる。見放すことなく注目を、という本書の呼びかけに応えたい。