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観ず嫌いになっていませんか? 知れば知るほど面白い能楽の本

 600年以上にわたって観られ演じられてきた能楽。しかし誰もが知ってはいても、実際に能楽堂に通う習慣がある方は少ないでしょう。もしくは観たことはあるけど、上演時間が長くて意味もわからず……という経験をお持ちの方も多いかもしれません。だけど、能は知れば知るほどおもしろくなるのです。そこでここでは能の予復習に最適な本を集めました。

  1. 「風姿花伝・三道 現代語訳付き」(世阿弥、角川ソフィア文庫)
  2. 「異界を旅する能 ワキという存在」(安田登、ちくま文庫)
  3. 「能・文楽・歌舞伎」(ドナルド・キーン、講談社学術文庫)
  4. 「能・狂言 (21世紀版・少年少女古典文学館 第15巻)」(講談社)
  5. 「近代能楽集」(三島由紀夫、新潮文庫)

(1)「風姿花伝・三道 現代語訳付き」
 能楽の大成者・世阿弥による奥義書で、能の核心ともいうべき「幽玄」の概念が説かれています。また、演者がいかに舞うべきかを年齢別に、具体的に伝授しています。本書によると、年齢によって演者が引き立つ舞い方はそれぞれ違うのだそうです。演じ手の見方がわかれば、また一味違った楽しみ方ができるでしょう。

(2)「異界を旅する能 ワキという存在」
 著者は「ワキ」という能の役柄を務める舞い手であり、古代中国語の専門家でもあります。その博覧強記の知識と教養によって、能の構造や個々の演目の醍醐味がわかりやすく語られています。ほとんどの能作品は観る者を異界へ誘うような巧みな仕掛けをはらんでいる、ということがわかります。これから能を観ようと思っている方にオススメの一冊です。

(3)「能・文楽・歌舞伎」
 日本文学研究者として広く知られるドナルド・キーンによる日本の伝統芸能論。英語で書かれたものの翻訳ということもあり、日本文化にどっぷり浸かっている日本人には持てないような客観的でユニークな視点が魅力の一冊です。「これくらい知っていて当たり前」という暗黙の前提がないので、能のことが一からすっきりと理解できます。

(4)「能・狂言」
 能と狂言はいつもセットで演じられます。本書には、両者の詞章・台詞が一冊に収められています。現代語訳は2人の日本語の達人、劇作家・別役実(能)、詩人・谷川俊太郎(狂言)が担当しています。ときに難解に感じる古語ですが、このいかにもふさわしい人選によって子どもにもわかる現代の日本語として、生き生きと蘇っています。

(5)「近代能楽集」
 三島由紀夫の手による能楽のアップデート版です。能に造詣の深い著者が、能作品を踏襲しながらそれを現代の人々に置き換えてリメイクしています。天才劇作家とも言われる三島だけに、読み始めたら止まらない台詞のおもしろさは保証済み。ここに書かれているものが能のエッセンスだとすれば、オリジナルを観ない手はありません。