海賊版サイトや読み放題サービスなどで揺れる、ネット時代の出版界はどうなるのか――。『18歳の著作権入門』などの著者で弁護士の福井健策さんが20日、朝日新聞東京本社読者ホールで講演し、出版文化を守るための著作権制度の改革案などを語った。
福井さんはユーモアを交え、観客も巻きこんだ。「漫画で絶版状態になってしまう本が多いのはなぜでしょう」と問うと、「出版点数と巻数が多いので書店の棚があふれ、古い作品は消えやすい」と正解が出て、驚く場面もあった。
「漫画村」などの海賊版サイトについては、被害の深刻さや対策の課題を紹介。政府はサイトへの接続遮断の合法化を検討してきたが、「通信の秘密」を侵害するとして反対も根強い。政府の検討会議の委員でもある福井さんは「遮断以外の対策は一致しているものが多く、粘り強く解決策を見いだしていきたい」と語った。
出版科学研究所によると、昨年の紙の出版物の推定販売額は1兆3千億円で最盛期の半分で、電子出版市場を含めても前年割れだ。出版不況について福井さんは「海賊版だけが原因ではない」と指摘。「ネットの発達で、もはやギガ(10億)コンテンツの時代となり、激増した無料・低廉の作品にプロの作品が押されている」
一方で、環太平洋経済連携協定(TPP)により、著作権の保護期間が作者の死後50年から70年に延びることが決まっている。
著作権は、作品が生まれた瞬間に発生する。「死後70年」となると作者のひ孫の代まで保護されることになり、かえって作品の流通が妨げられる恐れがあるとして福井さんは延長反対を訴えてきた。
著作権が切れれば、作品をネットで公開する「デジタルアーカイブ」などで過去の作品に光が当たりやすくなる。映画化や翻訳、出版もしやすくなり、出版界の活性化につながる。「保護期間の延長で、過去の作品が埋没し忘れ去られたりする可能性が高まる」
ギガコンテンツ時代、著作権法は制度疲労
著作権法は「文化の発展」を目的に掲げるが、著作権は作者やその子孫ら著作権者が作品をコントロールできる強い権利ゆえ、利用する側の自由も確保しないと文化の発展を損なう。「ギガコンテンツが流通する時代に、作品を囲い込むだけでは収入は確保できない。大量の作品の権利者を探し、許可を得る作業も課題。著作権法は制度疲労を起こしている」
福井さんが提案したのは、著作権を一部弱めるという大胆なリフォーム案だ。市場で流通していない絶版の作品は、著作権を持つ作者や子孫の許可がなくても、ネットで公開できるようにする。ただし、著作権者には収益を受け取る権利は残し、公開中止を求められるようにもする。
著作権法は、ネット公開など作品を利用する際は、作家ら著作権者に許可を得るのが「原則」で、無断で利用できるのは学校教育など、あくまで「例外」。絶版書籍に限るとはいえ、許可なく使えるとなれば原則と例外が逆転する。
また、作品を使う側が許可をとりやすくするために、音楽分野で日本音楽著作権協会(JASRAC)がしているような集中管理のしくみを出版界に導入することも「大きなテーマ」とし、「公正な運用の確保も重要」と指摘した。
「長期的には価格破壊がどうしても進む。プロのクリエーターが作品だけで収益を得るのは難しくなる可能性があり、我々はその時代に備えなければいけない」 (聞き手・赤田康和読書推進事務局長、文・上田真由美、木村尚貴)=朝日新聞2018年9月29日掲載