食べ物の名前が長くなったなあ。
と、コンビニの棚の前で思う。「なんとかにこだわった」「どこそこ産の」「なにダシ仕立ての」「一日分の野菜が取れる」「まるごと」「もちもち」「行列ができる」。多種多様な(と言いつつパターン化した)修飾語が、複数組み合わさってラベルに並んでいる。
わたしはそういうのを読むのが、嫌いではない。考えすぎて余計わからなくなった名前や、食べ物の形容としてどやろかというのを見つけるのは、おもしろい。次々発売される新商品を眺めて、昨今はこのような食材や言い回しが流行(はや)っているのやなあ、と勉強にもなる。
が、さすがにいろいろくっつけすぎでは、と思い始めたのは、お値段がちょっと高めの某アイスクリームの名前である。なんとか風なにのこれこれ仕立て、と、いつの間にか三種類の味が組み合わさっているのが基本仕様になってきた。定番のシンプルなのもあるが、目立って売られるのはやはり新商品。その名前を見ても、あんまり味が思い浮かばない。想像する楽しみはある。食べてみたらなるほどおいしかったこともある。でも、常にどれも三つ掛け合わせでなくともよいのではないか。もうちょいストレートな味のはないのだろうか、と思うに至った。
それで、これは味が求められているというよりも、名前をつけなければならないせいなのでは、との結論になりつつある。名前で盛らないと、目立たない、というか、ひっかからない。そもそもこのタイプの名付けは、高級レストランのメニューから来ているように思う。長い名前は華やかで、魅力的なのは確かだ。そこに唐突に「焼きそば」「バニラアイス」としか書いてないのがあると、地味すぎるというか、今どきは業務用に思われるやもしれぬ。言葉こそが、内実を変えてしまうのだ。
しかし、わたしは今とても、焼きそばやミルクアイスが食べたい。仕立てたり風にしてない、普通のん。その普通のが、ここにはない。=朝日新聞2018年10月15日掲載
編集部一押し!
- インタビュー 「尾上右近 華麗なる花道」インタビュー カレーと歌舞伎、懐が深いところが似ている 中村さやか
-
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 生きるために、変化を恐れない。迷いが消えた福岡伸一「生物と無生物のあいだ」 中江有里の「開け!野球の扉」 #13 中江有里
-
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- 大好きだった 「七帝柔道記Ⅱ」の執筆で増田俊也さんが助けられた「タッチ」と「SLAM DUNK」 増田俊也
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社