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名前と中味 柴崎友香

 食べ物の名前が長くなったなあ。
 と、コンビニの棚の前で思う。「なんとかにこだわった」「どこそこ産の」「なにダシ仕立ての」「一日分の野菜が取れる」「まるごと」「もちもち」「行列ができる」。多種多様な(と言いつつパターン化した)修飾語が、複数組み合わさってラベルに並んでいる。
 わたしはそういうのを読むのが、嫌いではない。考えすぎて余計わからなくなった名前や、食べ物の形容としてどやろかというのを見つけるのは、おもしろい。次々発売される新商品を眺めて、昨今はこのような食材や言い回しが流行(はや)っているのやなあ、と勉強にもなる。
 が、さすがにいろいろくっつけすぎでは、と思い始めたのは、お値段がちょっと高めの某アイスクリームの名前である。なんとか風なにのこれこれ仕立て、と、いつの間にか三種類の味が組み合わさっているのが基本仕様になってきた。定番のシンプルなのもあるが、目立って売られるのはやはり新商品。その名前を見ても、あんまり味が思い浮かばない。想像する楽しみはある。食べてみたらなるほどおいしかったこともある。でも、常にどれも三つ掛け合わせでなくともよいのではないか。もうちょいストレートな味のはないのだろうか、と思うに至った。
 それで、これは味が求められているというよりも、名前をつけなければならないせいなのでは、との結論になりつつある。名前で盛らないと、目立たない、というか、ひっかからない。そもそもこのタイプの名付けは、高級レストランのメニューから来ているように思う。長い名前は華やかで、魅力的なのは確かだ。そこに唐突に「焼きそば」「バニラアイス」としか書いてないのがあると、地味すぎるというか、今どきは業務用に思われるやもしれぬ。言葉こそが、内実を変えてしまうのだ。
 しかし、わたしは今とても、焼きそばやミルクアイスが食べたい。仕立てたり風にしてない、普通のん。その普通のが、ここにはない。=朝日新聞2018年10月15日掲載