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人類の新たな価値を探るヒント  朝日新聞読書面書評から

ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来 上 著者:ユヴァル・ノア・ハラリ 出版社:河出書房新社 ジャンル:歴史・地理・民俗

価格:2052円
ISBN: 9784309227368
発売⽇: 2018/09/05
サイズ: 20cm/265p

人類は不死と幸福、神性を目指し、神のヒト「ホモ・デウス」へと自らをアップグレードする。そのとき、富む者と貧しい者との格差は、創造を絶するものとなる−。人類の未来を、かつて…

評者:長谷川眞理子 / 朝⽇新聞掲載:2018年10月20日

ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来(上・下) [著]ユヴァル・ノア・ハラリ

 今は2018年。あなたは幸せですか? 人類全体として見れば、私たちは大雑把に言って、戦争と飢饉と疫病を克服した。これまでの長い歴史において、この三つがどれほど普通の人々の日常を不幸にしてきたことか。21世紀の現在、数万年にわたる人類の懸案の問題が、一応解決されたのだ。
 さて、それでは、これから私たちはどこに向かうのか? これが本書の論点である。これまでの人類史の総まとめと、これからどうするかの未来予測をするための材料の提供だ。上下2冊に詰まった情報と考察のまばゆく華麗な提示。それを消化するには、いささかの体力と知力を要する。
 戦争と飢饉と疫病をなくすことに成功したのは、科学と技術のおかげだ。では、この科学と技術で人類は次に何をめざすか? おそらく、死という運命を克服することをめざすのではないか。それは、人間自らが神になることだ、というので「ホモ・デウス(デウスはラテン語で神)」である。
 本書は、同じ著者による有名な前作『サピエンス全史』の続編である。人間が何を信じ、何に価値を求めてきたか、人類の精神史を描いてみせる技はさすがだ。宗教は、神の存在を想定し、神が教えてくれる世界の秩序に従っていることを善とした。近代科学はそれをくつがえし、人間自身こそが世界を知る力を持っているとした。
 そうして人間は、人間自身の尊重と個人の自由を至高のものとするヒューマニズムを打ち立てた。それが、今の私たちの価値観なのだ。ところが、AI(人工知能)や生命工学などの現代の科学技術がこのまま進展していくと、ヒューマニズムの価値観そのものが壊されていく。
 意識とは何か、「私」とは何かという問題は、生きていく上で非常に重要なはずだ。それらは、まだまだ明らかになっていない。ところが、どんな生命も社会システムも、意思決定のための情報処理アルゴリズムだと考えると、意識や「私」の問題は無視して、ヒトのやり方を上回るアルゴリズムを作ることができる。いや、もうすでに、そんなものが人々を魅了しつつある。不完全な人間が考えるより、アルゴリズムにまかせた方がよいのではないか。
 うーむ、何かおかしい。アルゴリズムを評価するのは誰? 意思決定を機械にまかせたら、人間の意識や「私」の感覚はどうなる? そういう環境に生まれた人は何をする? 結局、人間は人間をやめることになるのだろう。そんな世界で人々は、永遠に生きたいと願うのだろうか? しかし、欲望自体も操作できる。現在はそんな時代の入り口だ。私たちは本当に何をしたいのか、立ち止まって議論する材料がいっぱいである。
    ◇
 Yuval Noah Harari 1976年生まれ。イスラエルの歴史学者。エルサレムのヘブライ大教授。オンラインでの無料講義も行っている。著書『サピエンス全史』は世界的ベストセラー。