プロローグ 手入れ #5
コカインや覚醒剤でハイになっているやつらと相対するには、こっちも薬理学的に同じような状態になっているほうがいい。マローンは“ゴー・ピル”――興奮剤のデキセドリンを二錠飲む。そして、“NYPD”と白いステンシルで書かれた青いウィンドブレーカーを羽織り、バッジをつけた吊るしひもを胸に垂らす。
ルッソはブロックをもうひとまわりし、一四六丁目通りの角を曲がったところで、アクセルを目一杯踏み込む。そして、工場のまえまで来ると、急ブレーキをかける。そのタイヤの音に見張り番が振り向くが、そのときにはもう遅い――マローンは車が停まったときにはもう降りており、見張り番の顔を壁に押しつけると、SIGの銃口を男の頭に突きつけて言う。
「声をあげるな(カヤーテ)、このクソ(ペンデホ)。ひとことでも何か言ったら、おまえをずたずたにするからな」
そう言って、うしろから見張り番の脚を蹴って地面に坐らせる。そのときにはもうビリーがすぐうしろに来ており、ダクトテープで男の手をうしろ手に縛り、さらにテープで口をふさぐ。
チームのほかのメンバーは建物の壁に身を押しつけている。「おれたちはどんな些細なヘマもしない」とマローンが言う。「今夜は全員無傷で家に帰る」
デキセドリンが効きはじめる。鼓動が速まり、血が熱くなる。
いい気分だ。
彼はビリー・オーを屋上に遣(や)り、非常階段を降りて、二階の窓を見張るよう指示する。それ以外のメンバーは階段をのぼる。SIGをまえに構えたマローンが先頭に立ち、ショットガンを持ったルッソがそのあとに続き、モンティがしんがりを務める。
マローンは自分の背後をいささかも心配していない。
階段を上がりきったところに木のドアがある。
マローンはモンティにうなずいてみせる。
ビッグ・モンティは階段を上がってくると、ドアとドア枠のあいだに、ドアをこじ開ける“ラビット”を噛ませ、思いきりラビットのハンドルを押しつける。額に汗が噴き出し、黒い肌を伝う。軽い音をたてて、ドアが開く。