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ドン・ウィンズロウ最新刊「ダ・フォース」を試し読み特別連載9(毎日更新)

 

>「ダ・フォース」試し読み第1回から読む

プロローグ 手入れ #6

マローンは中に踏み込むと、銃を扇状に動かす。が、玄関ホールには誰もいない。右を見ると、廊下のつきあたりに新しい金属のドアが見える。そのドアの向こうから、ドミニカ発のダンス音楽の音、スペイン語の話し声、コーヒー・グラインダーの音、マネーカウンターの機械音が聞こえてくる。

犬が鳴いている。

くそ、とマローンは胸につぶやく。今じゃヤクの売人は誰もが犬を飼っている。イーストサイドの気取った女がみんな、よく鳴くちっちゃなヨークシャーテリアをハンドバッグに入れているみたいに、ピットブルを飼っている。それは悪い考えではない――犬というのは囮

捜査官の大敵だし、工場で働いている娘(チーカ)たちも犬に顔を噛みちぎられると思ったら、ヤクをこっそり盗むなどという考えはあっさり捨てるだろうから。

マローンが心配したのはビリー・オーのことだ。ビリーは大の犬好きなのだ。ピットブルでさえ好きなのだ。マローンはそのことを四月に学んでいた。彼らが川沿いの倉庫の手入れをしたときのこと、彼らの咽喉笛(のどぶえ)めがけて、三匹のピットブルが金網フェンスを突き破って襲いかかってきた。が、ビリー・オーにはその犬を撃ち殺すことができなかった。ほかのメンバーに撃たせることも。で、彼らはわざわざ工場の裏にまわり、屋上まで非常階段をのぼってから降りてこなければならなかったのだ。

なんとも苛立たしいことに。

いずれにしろ、ピットブルはマローンたちに気づいたようだが、ドミニカ人たちはまだ気づいていない。彼らのひとりの怒鳴り声が聞こえる。「黙れ(カヤーテ)!」何か鋭い音がして、そのあとはもう、犬の鳴き声は聞こえなくなる。

しかし、〈ハイガード〉製の鋼鉄のドアが問題だ。

ラビットでは歯が立たない。

マローンは無線で呼びかける。「ビリー、位置についたか?」

「ついてる、ボス」

「これからドアを吹き飛ばす」とマローンは言う。「でかい音がしたら、閃光手榴弾を投げ込め」

「了解、デニー」

マローンはルッソにうなずいてみせる。ルッソはドアの蝶番を狙ってショットガンを二発撃つ。セラミックパウダーが音速より早く炸裂し、ドアはあっけなく降参する。

ビニールの手袋とヘアネットしか身に着けていない素っ裸の女たちが、窓の外の非常階段めがけて駆けだす。ほかの者たちはテーブルの下に身を隠す。マネーカウンターが現金を床に吐き出す。スロットマシンがコインではなく紙幣をばら撒いているかのように。

マローンが叫ぶ。「警察だ!」

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