プロローグ 手入れ #7
左手の窓にビリーの姿が見える。
ただいるだけだ。窓越しに中をじっと見ている。どうした! 手榴弾を投げろ!
が、ビリーは投げない。
いったい何を待ってる?
そこでようやくマローンも気づく。
ピットブルには四匹の子犬がいたのだ。母犬のうしろで身を寄せ合ってボールのように丸くなっている。母犬は鎖を目一杯引っぱって、吠えている。子犬たちを守ろうとして必死に吠えている。
ビリーは子犬を傷つけたくないのだ。
マローンは無線越しに怒鳴る。「この馬鹿野郎、早くしろ!」
ビリーは窓越しに彼を見ると、窓ガラスを蹴って割り、手榴弾を放り込む。
しかし、遠くへは投げない。クソ子犬どもを少しでも守ろうとする。
炸裂の衝撃で窓ガラスがすべて割れ、その破片がビリーの顔と首に降りかかる。
眼がくらむような明るい白色光――叫び声に悲鳴。
マローンは三つ数えてから中にはいる。
中はカオスだ。
〈トリニタリオ〉のひとりがくらんだ眼を片手で覆い、もう一方の手に持ったグロックを乱射しながらよろよろと窓のほうへ、非常階段のほうへあとずさりして向かっている。マローンはその男の胸に二発ぶち込む。男は窓に向けて倒れ込む。もうひとりのガンマンが机の下からマローンを狙って撃ってくる。マローンは三八口径の一発でその男を仕留め、もう一発撃ってとどめを刺す。
女たちは窓から出してやる。
「ビリー、大丈夫か?」
ビリー・オーの顔はハロウィーンのカボチャみたいになっている。
切り傷は腕にも脚にもできている。
「アイスホッケーの試合でもっとひどく切っちまったこともあるからね」と彼は笑いながら言う。「ここが片づいたら自分で縫うよ」
いたるところに金がある。束になって。機械の中に入れられて。床じゅうに散らばっている。ヘロインはまだコーヒー・グラインダーの中にある。
しかし、大した量ではない。
壁に掘られたラ・カハ――隠し場所――が口を開けている。
そこにヘロインの塊が床から天井まで積み上げられている。
ディエゴ・ペーナはおとなしくテーブルについて坐っている――仲間がふたり死んだことをどう思っているにしろ、それは顔には出ていない。「捜査令状はあるのか、マローン?」
「助けを求める女の叫び声が聞こえたもんでね」とマローンは答える。