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つむじ風のように繋がる線と生

評者: 椹木野衣 / 朝⽇新聞掲載:2018年11月17日
ライフ・オブ・ラインズ 線の生態人類学 著者:ティム・インゴルド 出版社:フィルムアート社 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784845916269
発売⽇: 2018/09/25
サイズ: 20cm/317,24p

ライフ・オブ・ラインズ 線の生態人類学 [著]ティム・インゴルド

 「ライフワークの到達点」という帯の謳い文句に引かれて手を取った。が、読み始めた途端、つい笑みがもれてしまった。「人生(ライフ)は、いつもそうであるが、文章(ラインズ)を書く機会としてではなく、絶えず要求される大学の務めとして現れる」とある。大学勤めの者なら心当たりがあるだろう。だが、それが本書のキーワード「結び目」と「歩くこと」を通じ、いつのまにかタイトル「ライフ・オブ・ラインズ」へと結びついていくのはさすがだ。
 人生のあいまを見つけて書き継いだものだから、論文のような起承転結はない。だが、著者の目的は初めから結論を示すことではない。全体が30にも及ぶ断章からなるのは、そのためだろう。ひとつひとつの文章は、主題も毛色も少しずつ違っているけれども、たがいに結びつけられることでいくつもの節を持つ一本の線となる。そうこうしているうち、書かれた文章(ライン)と読む人の人生(ライフ)が予想もしない結びつきをなし、線描のような軌跡を描き出す。ちょうど画家マティスの代表作「ダンス」の輪が「巻き込んだり巻き込まれたりする渦巻き」を通じて分析されているように。
 渦巻きのような線と固定された線分は違う。線分の両端は切れているが、線は別の線と結び目を作ることで際限なく繋がっていく。たとえ結び目がほどけても、形状は残る。その曲がり具合がまた別の動きとの結びつきを誘発し、予想もしていなかった方へ向きを変える。一瞬のつむじ風のように。
 実際、本書は天候の比喩がいたるところで見られる。歩くことは天気の気まぐれにさらされることでもある。雨の日には傘を差し、陽が強ければ陰を選ぶ。体は絶えず特定の天候と結び目を作っている。私たちは真空のなかで思索しているわけではない。多くの偶然が起きるだろう。だが、それこそが「人間になる/人間である(ライフ・オブ・ラインズ)」ということなのだ。
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 Tim Ingold 1948年生まれ。英の人類学者。邦訳された著書に『ラインズ 線の文化史』など。