「あの小説をたべたい」は、好書好日編集部が小説に登場するごはんやおやつを料理し、食べることで、その物語のエッセンスを取り込み、小説の世界観を皆さんと共有する記録です。
今回挑戦するのは、田辺聖子『春情蛸の足』。関西を舞台に、おでん、きつねうどん、すきやき、たこやきなど、身近な食がつなぐ男と女の物語を綴った短編集です。どこか哀愁ただよう中年男性たちが、食へのこだわりを追求する中で、幼なじみや元妻など気心知れた女性との時間や会話を楽しむ姿が愛おしく描かれています。
「かつおのおどり」を食べる
どの短編も読めばおなかがすくほどに、食の描写が丁寧。その中から、今回は「お好み焼き無情」に登場する「ほんまのお好み焼き」を作ってみました。
アルミカップの中へ溶いたメリケン粉が入れられる。薄茶色なので、何かのだしで溶いているらしい。
さすが、だし文化の関西。とはいえ、今回は時短ということで便利なお好み焼き粉を利用。キャベツにネギ、天カスなどスタンダードなお好み焼きの具材を入れてタネをつくったら、あとは焼くだけです。
こんもりしたお好み焼きは、てらてらとソースを塗りたくられて、この上もない幸福そうな表情でいる。そこへ、かつおぶしを薄く削った花かつおが盛られる。
焼き上がったばかりの熱々のお好み焼きに、こってりしたソースをたっぷり。その上にふわふわの花かつおをまぶすと、かつおが小躍りしてくれました。もっと削りが粗いものだとダイナミックに舞ってくれそうです。
「エビのおどりやないけど、花かつおのおどり、生きてるうちにどうぞ」と目の前へ置かれた。
ソースの匂いに食欲を刺激され、かつおのおどりが終わらないうちに美味しくいただきました。