ある日、「ぼく」のところに現れた地球みたいな頭の、小さなおじさん。彼が問い直す「今時の便利な生活」への批判的な視点は、エコロジーへの配慮に富んでいる。タイトル「買いものは投票」との思想は、社会的な意味や価値を主眼としたオルタナティブ消費志向と同根だ。また、「ファストファッション」「ファストフード」に代表される「ファスト」な消費生活に抗する「スローフード」運動や「ロハス」にも通じる。かわいらしい絵柄ながら、なかなかに硬派な消費思想本である。
ただ、本書が薦める「自然・手作り」の生活は、現代日本の多くの消費者にとって、時間・コストともに選択が難しい。「自然」な商品は概ね高コストだし、「手作り」を追求すれば、超人的スキルの持ち主でもなければ、際限なく時間が取られてしまう。
本書の想定読者層は、小さな子どもの親たちであろう。ただでさえ子どもの身体への影響を考え、「不自然な」商品への忌避感が強い消費者層といえるため、過度に不安を煽らないか心配だ。たとえば、「みんなのお家をのぞいてみよう」のコーナーでは商品が二項対立的に描かれ、「どっちを選ぶ?」と聞いている。「化学調味料」は「グルタミン酸ナトリウム 味覚がおかしくなってしまいます」対「自然そのままの味」。「防虫剤」は「農薬にもつかわれる化学物質を吸いこむ危険」がある市販防虫剤対「虫が嫌いな天然アロマ 自然なもので防虫」。
実質的に普通の消費生活の否定が前提とされるため、おそらく多くの普通の消費者、とりわけ乳幼児の親にとって、苦しい内容といえる。子どものアレルギー体質や母乳が出ないなど、自身の生活習慣を責める母親は少なくないのだから……。
もちろん、現代の「ファスト」な消費生活は問題だらけで、この点に異論はない。ただ環境だけではなく、消費者にも優しく実践しやすい消費本も読まれて欲しいと、切に願う。
◇
三五館シンシャ・1296円=4刷2万2千部、10月刊行。担当編集者によると、主な購読者層は若いお母さん。「自分の行動を見直す第一歩になった」との声が届いているという。=朝日新聞2018年12月22日掲載
編集部一押し!
-
文芸時評 深い後悔、大きな許し もがいて歩いて、自分と再会 都甲幸治〈朝日新聞文芸時評25年11月〉 都甲幸治
-
-
インタビュー とあるアラ子さん「ブスなんて言わないで」完結記念インタビュー ルッキズムと向き合い深まった思考 横井周子
-
-
えほん新定番 内田有美さんの絵本「おせち」 アーサー・ビナードさんの英訳版も刊行 新年を寿ぐ料理に込められた祈りを感じて 澤田聡子
-
谷原書店 【谷原店長のオススメ】馬場正尊「あしたの風景を探しに」 建物と街の未来を考えるヒントに満ちている 谷原章介
-
オーサー・ビジット 教室編 自分で考えて選ぶ力、日々の勉強と読書から 小説家・藤岡陽子さん@百枝小学校(大分) 中津海麻子
-
鴻巣友季子の文学潮流 鴻巣友季子の文学潮流(第32回) 堀江敏幸「二月のつぎに七月が」の語りの技法が持つ可能性 鴻巣友季子
-
トピック 【プレゼント】第68回群像新人文学賞受賞! 綾木朱美さんのデビュー作「アザミ」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】大迫力のアクション×国際謀略エンターテインメント! 砂川文次さん「ブレイクダウン」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】柴崎友香さん話題作「帰れない探偵」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 今村翔吾さん×山崎怜奈さんのラジオ番組「言って聞かせて」 「DX格差」の松田雄馬さんと、AIと小説の未来を深掘り PR by 三省堂
-
イベント 戦後80年『スガモプリズン――占領下の「異空間」』 刊行記念トークイベント「誰が、どうやって、戦争の責任をとったのか?――スガモの跡地で考える」8/25開催 PR by 岩波書店
-
インタビュー 「無気力探偵」楠谷佑さん×若林踏さんミステリ小説対談 こだわりは「犯人を絞り込むロジック」 PR by マイナビ出版