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「子どもには聞かせられない動物のひみつ」書評 イソップ以来の誤解をほどく

評者: 山室恭子 / 朝⽇新聞掲載:2019年01月26日
子どもには聞かせられない動物のひみつ 著者:ルーシー・クック 出版社:青土社 ジャンル:動物学

ISBN: 9784791771318
発売⽇: 2018/12/22
サイズ: 19cm/401,10p

子どもには聞かせられない動物のひみつ [著]ルーシー・クック

 こんな本を待っていた!
 世界中から感謝のおたよりが届いています。
 「ぐでー。今日も木の枝にぶら下がって、ぼーっと過ごしました。あまりに動かないので、毛皮にカブトムシや蛾がびっしり棲みついて、まるで木そのもの。おかげで天敵に見つかりません。こんな私どもを科学者の著者さんは、よく観察してくださった。
 そうなんです。食べた葉っぱを排泄するのに50日かかるほどのろまなのも、目も耳もぼわぁんと鈍いのも、低体温なのも、すべては使うエネルギーを極限まで減らす賢いサバイバル戦略なんですよ。今後はエコ☆スターって呼んでほしいもんです」(コスタリカ在住・ナマケモノさん)
 「ぬらりするり。地球を四分の一周もする我らの大冒険が、こうして日の目を見るなんて」(サルガッソー海底・ウナギさん)
 「あー、かわい子ぶるのは、もううんざり。恋に不器用な動くぬいぐるみ? それ、動物園のなかだけの幻想だから。野生の群れが繁殖の季節にどんな荒々しい振る舞いをするか、ゆーちゅーぶとかで発信して、全人類をのけぞらせてやりたいわ。
 そうそう、同じく白黒かわいい系ジャンルに押し込められたペンギンさんたちも、この本読んで、してやったりと翼をうごめかせてたわよ。コウテイペンギンの85%は毎年パートナーをチェンジするの。一夫一婦制の甘い夢なんか見てたら厳しい自然に淘汰されちゃうでしょっ」(中国在住・パンダさん)
 「俺らは子孫を残すために生きてる。だからセックスライフは最重要事項だ。世のお父さんお母さんは、子どもたちが見つけやすい場所にこの本を隠して、正しい知識を届けてほしいね」(渡り鳥をやめてスペインのゴミ処理場で暮らすコウノトリさん)
 さあ、イソップ以来の誤解と奇想の絡まりをほどいて、新しい動物王国へと出発いたしましょう。
    ◇
 Lucy Cooke 英のブロードキャスター、映画監督、博物学者。BBCなどの動物番組に出演、各紙に寄稿。