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厳選!マンガ“参考書”のススメ 2018年刊行の研究書から

2018年に刊行されたマンガをめぐる研究書や評論集の数々

■美術史学の観点から

 松下哲也「ヘンリー・フューズリの画法 物語とキャラクター表現の革新」(三元社)は美術史学の研究書だが、絵による「キャラクター表現」が作られた歴史的背景を分析している点で、マンガ研究にとっても示唆に富む。
 フューズリは18世紀に活躍したロマン派の画家で、物語が連続していく購読版画も手がけていた。現在の連載マンガのようなもので、そこでは一定の造形と性格を持った「キャラクター」を描き分ける必要があった。
 フューズリはアカデミーで教壇に立った理論家でもあった。彼の造形理論では、絵画に登場するキャラクターの見た目が、その内面や性格と結びつく形で描き分けられる。松下はその背景にある「観相学」に注目した。顔の造りと性格を結び付ける観相学は人相占いのようなものだが、当時は「科学」の一つだった。
 キャラクターの性格や物語の中での位置づけが見た目で理解できるというシステムは、日本マンガのキャラクター表現と似ている。著者の松下もその点は意識しているようだ。絵画(研究)/マンガ(研究)といった垣根を取り払い、「絵の歴史」を書いていきたい、と発言しており、心強い。

■「描く読者」生む装置

 大塚英志(えいじ)「大政翼賛会のメディアミックス 『翼賛一家』と参加するファシズム」(平凡社)は、太平洋戦争期、複数の新聞や雑誌で多数の作家が発表した「翼賛一家」というマンガシリーズにフォーカスした研究である。
 このシリーズは大政翼賛会が企画し、国家総動員のため一元化されたマンガ家団体「新日本漫画家協会」の協力で展開した一種のプロパガンダだ。「翼賛一家」の作者のひとりには、若き日の長谷川町子もいた。大塚はこのプロジェクトが「多メディア展開を前提につくられた企画であること」「二次創作の推奨」「第三者による『版権』管理」という3点において、80年代以降、角川書店がビジネスモデル化した「メディアミックス」戦略と全く同じ構造であることを指摘する。
 興味深いのは「二次創作」が推奨されていた点だ。大塚は、デビュー前の手塚治虫少年もこの「翼賛一家」の二次創作を制作していた可能性に言及しているが、手塚のような「マンガを描く読者」を生み出した一種の文化装置の存在が、日本独特のマンガ文化を作り上げていったことは、マンガ研究者の伊藤剛らも指摘するところである。
 大塚が指摘するように、どのようなメディアで発表されるかは、マンガ作品の表現と読まれ方を大きく規定する。紙の出版物としての雑誌の部数と売り上げが、90年代の半ばをピークに下降の一途をたどっている事実をどのように捉え、それに替わるメディアをどう作り上げていくかは、マンガ文化全体における非常に重要な課題である。

■乱立するアプリ整理

 この課題を考える上で、飯田一史(いちし)「マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代」(星海社)は役に立つリポートだ。電車の中などで、しばしばスマートフォンでマンガを読んでいる人を見かけるが、そこで読まれているマンガは、各社による全く別のシステムのマンガアプリで配信されている。
 本書は、これら乱立するマンガアプリを目的ごとに分類し、それぞれのメリットとデメリットを整理。その上で、「サービスの中にユーザーが『場』全体にコミットし、応援したくなる仕組みをつくること」「コミュニティー作りが重要であること」など、ビジネスツールとしてのアプリをいかに育てるべきかの具体的な対策も提案している。
 (伊藤遊・京都国際マンガミュージアム研究員)=朝日新聞2019年1月25日掲載