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村上春樹作品に添える奇想イラスト ドイツのカット・メンシックさん

『図書館奇譚』(村上春樹著、カット・メンシック絵、新潮社)から

文章の奥にある何か、対峙させたい

 村上春樹さんの短編に、ドイツ発のミステリアスな絵がついたアートブックのイラストレーター、カット・メンシックさんが来日した。2010年以降、『ねむり』『パン屋を襲う』『図書館奇譚(きたん)』『バースデイ・ガール』の4冊を刊行してきた(いずれも新潮社)。村上作品は絵心を強く刺激する。

 メンシックさんは1968年、旧東ドイツのルッケンバルデ生まれ。20代で『羊をめぐる冒険』に出あって以降の愛読者。「初めて読んだときには驚きました。文体も内容も新しさがあった。そのイラストを手がけることはチャレンジで、とにかく楽しかった」

カット・メンシックさん
カット・メンシックさん

 贈り物になる大人向けの本を、というドイツの出版社の企画。メンシックさんの絵は線が強く、幻想的で、物語に登場しない昆虫や貝、クラゲが描き込まれている。「村上さんの短編には複数の層がある。書かれていないものを絵で対峙(たいじ)させたかった」

 図書館に本を探していた「ぼく」が地下の部屋に捕らわれる『図書館奇譚』には、村上作品おなじみの「羊男」が登場する。日本では佐々木マキさんのポップなイラストが思い浮かぶが、メンシックさんの「羊男」は不気味だ。「気に入っている登場人物。悪い人なのか良い人なのか。可哀想にも見え、シンパシーを感じます」

 4冊はどれも奇想の度合いが高い短編だ。「旧東ドイツでは口にしてはいけないこと、語れないものが多かったからか、自分で本を読むときに書かれていないものを読み解こうとするようになった。村上さんの作品には文章の一歩奥に何かがあると思わせてくれる。物語に脇道がたくさんあって、画家としては宝箱のような小説です」

 一番好きな村上作品を尋ねると、最新長編『騎士団長殺し』と即答。ドイツでもベストセラーになっているという。主人公と深く関わる登場人物のひとり「免色(めんしき)さん」と「私はほぼ同じ名前なの」と笑う。「ストーリーが豊かで、描きたい要素が無数にあります」(中村真理子)=朝日新聞2019年1月30日掲載