共演者とは本当の家族のように過ごした
ある日突然、死んだはずの男が猫の姿になって、家族の前に戻ってくる。そんな不思議で、心温まる漫画「トラさん」(板羽皆・作)が実写映画になった。主人公は売れない漫画家の高畑寿々男(北山宏光)。ダメダメだけど、どこか憎めない寿々男を笑顔で支える妻・奈津子を、多部未華子さん(30)が演じた。
「最初に原作を読んだ時、寿々男の顔が北山さんにそっくり過ぎて、笑いました。小学生の娘を持つ母親の役は初めてで、『きちんと母親に見えるかな』という不安もあって。現場では割と1人でいる性格ですが、今回はそれではいけないと思って、北山さんと娘・実優役の(平澤)宏々路(こころ)ちゃんと3人でいることが多かったです。ゲームをしたり、お昼を食べたり、ダラダラとおしゃべりをしたり。本当の家族のように過ごして、仲良くなっていきました」
交通事故で突然亡くなってしまった寿々男は、「あの世の関所」で「愚かな人生を挽回(ばんかい)せよ」という命令を受け、猫の姿になって家族の前に現れる。猫は「トラさん」と名付けられ、奈津子と実優にかわいがられる。トラさんはフェイクファーとウレタンで作られた特殊な「猫スーツ」を身につけ、北山さん自らが演じた。
「現場での北山さんは8割くらい猫の格好をしていたから、ほのぼのとした空気が流れていました。頼りない寿々男と、しっかり者の実優、その2人を明るく見守る奈津子という良いバランスになっていて。この家族にとって、奈津子の存在が一番大きいように見えました」
若くて分別がつかない時に結婚しておけば良かった
多部さんは先月、30歳の誕生日を迎えたばかり。「30代は本当に大切な人と一緒に過ごしたい」と話す多部さんに、理想の家族像について尋ねた。
「やはり理想はあります。小さな家でも、子犬とあなたがいれば幸せという小坂明子さんの『あなた』(1973年発売のヒット曲)の歌詞みたいな。そんな家庭が理想です。でも現実はそんなにうまくいかないだろうな。もっと若くて分別がつかない時に結婚しておけば良かった(笑)。今は色々なことを考えてしまって、だめですね。私だったら寿々男みたいなタイプは選ばないです。絶対に。漫画の才能や家族への愛情が深いところは良いと思いますが、私はもっと頼りになって、引っ張っていってくれるような相手が理想です」
多部さんの家には、本がたくさんあった。小学生のころから、父親のすすめでアレックス・シアラーのファンタジー小説などを読んでいたという。「今も読書は好きで、女性が主人公の小説をよく読みます。最近は蓮見圭一さんの『水曜の朝、午前三時』を読んでいるところです。新幹線に乗る前に品川駅の本屋さんで目にとまって、買いました。本を選ぶ時は大体、一文目で決めます。一文を読めば、自分に合うか合わないかが分かるんです。時々『あ、違った』という時も、頑張って最後まで読むようにしています」
好きな作品の傾向は「女性の汚い部分が見えるような小説」と話す。「作家さんで言うと、柚木麻子さんが気になります。キャリアウーマンと主婦というタイプの違う女性の友情をテーマにした『ナイルパーチの女子会』も、女性結婚詐欺師が主人公の『BUTTER』も読みました。女性の奥にある闇を、小説でのぞき見る感じが好きなのかもしれないです」