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#特別編 束の間の「パリジェンヌ」 パリとモン・サン・ミッシェル

パリのシンボルであるエッフェル塔

 今からもう9年も前の話になるが、大学生の時に女子4人でフランスを旅したことがある。これが初めての海外旅行となる友人がいたこともあって、事前にチケット等の手配をしてくれるツアー旅行を選んだ。観光の要所をしっかりと押さえてくれるツアーだった。気の置けない友人たちとの旅は心の底から楽しくて、今でも大切な思い出だ。

 数々の映画や文学の舞台となってきた、花の都・パリ。エッフェル塔も凱旋門もルーブル美術館も、街角の花屋やカフェさえも、どこを切り取っても絵になる街。華やかさが漂いながら、どこか憂いも感じられて、色気がある街。何者でもない、単なる女子大生だった私たちにとって、やはりパリは憧れの場所であり、束の間の「パリジェンヌ」を気取る幸福感は相当なものだった。

パリの街角で。本当に音楽や芸術に溢れた、素敵な街だと思った

 高峰秀子の『巴里ひとりある記』(新潮社)は、200本以上の映画に出演したベテラン女優だった筆者が1951年、27歳の時に渡仏した時の旅日記だ。そこで、こんな記述を見つけた。

バスはパリに入る。凱旋門がみえ、エッフェル塔がみえ、ああパリに私はいるのだとつくづく思う。29ページ
長いあいだ女優してたけどなんにもないってことが、やっぱりつまんなかったのよ。センチだけどね、旅行でもなんでもいい、人間一生の中で思い出みたいなものがひとつあればいい。そう思ったの。142ページ

 そう、まさにこんな感じ。私たちはパリにいる。パリを私たちは旅している。それだけで、十分だった。決して贅沢をした旅ではなかったし、観光も定番コースだったけれど、パリにいられるだけで満足していたように思う。一緒に旅した3人は、ミュージカルサークルの仲間で、結構なミュージカルオタクだったから、「レ・ミゼラブル」や「アメリ」、「マリー・アントワネット」などの作品についても随分話して、楽曲を歌って、ずっと笑顔で旅した記憶がある。

モン・サン・ミッシェル修道院

 この旅でのハイライトは、パリから西へ約370キロ離れた場所にあるモン・サン・ミッシェルを訪れたことだった。湾に浮かぶ、城壁に囲まれた島に、1300年の歴史を持つ修道院がある。様々な人が巡礼に訪れ、かつては牢獄として利用されていたという歴史もある修道院。中世の趣そのままに厳かな雰囲気に圧倒されたのをよく覚えている。

 日帰りで帰る観光客が多いようだが、私たちは、かねてからの希望でモン・サン・ミッシェル島内に1泊した。昼間の喧騒が嘘のように静まり返った、夜の石畳の路地。15世紀の木骨造りの歴史的建造物の宿。泡立ちの良いふわふわのオムレツ。宿の小窓から差し込む柔らかな朝日。一瞬一瞬が愛おしく、大袈裟ではなく、映画の中の世界にいるような幻想的な時間だった。

モン・サン・ミッシェル修道院にて

 あれから9年。フランスを一緒に旅した仲間は、住む場所も職業もバラバラだけれど、いまだに定期的に会っているし、仲良くしている。

 いま、同じメンバーでフランスを旅したら、どんな旅になるだろう、とふと思う。大人になって、ワインの味もだいぶ分かるようになったから、パリのおいしいフランス料理とともに堪能してみたいし、自分に似合う服も知っているから、気ままなブティック巡りも楽しそう。パリのオペラ座で本場のオペラも見てみたいし、もう一度じっくりとルーブル美術館で“本物”に触れてもいい。

 もうあの頃には戻れないけれど、年を重ねた分、あの頃とは違ったフランスに出会えるだろう。そろそろまた、パリに呼ばれている気がしている。