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「拳銃使いの娘」書評 米国版「子連れ狼」の逃亡劇

評者: 諸田玲子 / 朝⽇新聞掲載:2019年02月23日
拳銃使いの娘 (HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS) 著者:ジョーダン・ハーパー 出版社:早川書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784150019396
発売⽇: 2019/01/10
サイズ: 19cm/261p

拳銃使いの娘 [著]ジョーダン・ハーパー

 「シトシトピッチャン、シトピッチャン」は「子連れ狼」。若い皆さんはご存じないだろうが、かつて一世を風靡したテレビ時代劇だ。めっぽう強い浪人が幼い大五郎クンを連れて切った張ったの旅に出る。これに発想を得たと著者が言うだけあって、無法者の父と11歳の娘の逃亡劇。ただし舞台はアメリカだから、至るところで保安官や殺し屋に追いまくられて、車はぶっ飛ばすわ、拳銃はぶっ放すわ。長ドスでカッコをつけてるヒマはない。
 私は、基本的に、バイオレンス物は嫌いだ。でも、このネイトとポリーの父娘には思わず感情移入をしてしまう。刑務所を出るまで娘の顔など思い出しもしなかったネイトが娘を救おうと命がけで闘う姿は、情愛などかけらもなさそうな男だけにぐっとくるし、修羅場でも熊のぬいぐるみを後生大事に抱え、はじめは父親に怯えて口もきけなかったポリーが日を追うごとにたくましく成長してゆくのも愉しい。
 ポリーは「あたしは金星から来たんだ」と自分に言い聞かせている。なぜなら白い真珠のように見える金星が、実際にはごつごつの岩と吹きすさぶ暴風から出来ていると本で読んだからだ。静謐な星が嵐を抱えている――それは気弱な自分の内側にも大いなる力があるということか。「あたしは金星の子なんだから」と唱えながら、ポリーは父を助けに飛び出してゆく。
 「血よりは明るく、ピンクよりは暗い。ポリーはその色を自分で選んだ。父親は地味な色を選んでほしがった。茶色っぽい色を。でも、ポリーは譲らなかった。赤がよかった。しばらくして父親はうなずいた」
 逃亡先のホテルの浴室でブロンドの髪を染め変える場面。ポリーは鏡をじっと見つめる。そしてそこに拳銃使いの眼を見る。
 視点を次々に替えながら物語は疾走する。現代を生き抜くには、この狼父娘のパワーが必要なのかも。がんばれ、ポリー!
   ◇
Jordan Harper 米国生まれ。脚本家。本書は長編第1作で、米探偵作家クラブ賞(エドガー賞)最優秀新人賞。