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【追悼】京マチ子さん 北村匡平著「美と破壊の女優 京マチ子」 横尾忠則さん書評 肉体言語を発し続けた美神

評者: 横尾忠則 / 朝⽇新聞掲載:2019年03月30日
美と破壊の女優 京マチ子 (筑摩選書) 著者:北村匡平 出版社:筑摩書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット

価格:1728円
ISBN: 9784480016775
発売⽇: 2019/02/13
サイズ: 19cm/286p

美と破壊性をあわせ持つ無二の映画女優、京マチ子。彼女の主演作が海外の名だたる映画祭で評価されたのはなぜか? 戦後多くの日本人に支持されたのはなぜか? 多彩な役を変幻自在に…

美と破壊の女優 京マチ子 [著]北村匡平

 「肉体」がやな、わての中に飛び込んできた初めての女(ひと)は、京マチ子はんや。そんな彼女の肉体に目覚めておませになって、十代でわての人格ができたんや。早うゆうたら、彼女がわての肉体に霊を宿しよった。その霊がわての絵に肉化した形而上美神ってわけや。
 スクリーンに顕在しよる美神・京マチ子はんはやな、無でも0(ゼロ)でもあらへん。空(くう)としての宇宙的存在や。黒澤はんの「羅生門」の彼女は大蛇の化身で、あの肉体をのたうちまわらせて無言の肉体言語ちゅうのを発し続けながら、狂気のエロチシズムをわての無意識の底に棲みつかせたんや。
 小津はんの「浮草」。中村鴈治郎はんとの大雨の中のシーンを憶えとるか? 「このアホ! バカタレ! 何がなんじゃい! ええ加減さらせ!」と怒鳴る鴈治郎はんに向かって「何がなんや!」「フン! 偉そうに。いうことだけは立派やな!」「ようもそんな口が聞けるな! そんなことうちにいえた義理か!」。猛烈なバトルや。この本を書きはった先生の描写はホンマに上手いで。絵を見事に言葉にしたはる。ほんまに映画観とるのと変わりまへん。先生の言葉の熱量には、わての血が騒ぎマ。京マチ子はんが肉体言語を発しはるとき、そこにやな、先生がおっしゃる「美と破壊」が炸裂しまんのや。ほんまにええ本書いてくれはった。おおきに。
 メタモルフォーゼする京マチ子、デペイズマンする京マチ子、オートマチズムする京マチ子はシュルレアリストでんな。ブルトンはんに倣ってオートマチックに本から言葉を拾いまひょ。「豹変・万華鏡・無軌道なアプレ・蠱惑的な肢体・変身・純真無垢・触覚性・幽体の舞・両義的・妖婦・魔性の女・可憐・七変化」。能のシテみたいでっしゃろ。モンローとは違いまっせ。
 昔、彼女主演のテレビドラマのタイトルバックを作ったんやけど、彼女は「そんなことあったかなあ」。今や記憶は忘却の彼方や。
    ◇
 きたむら・きょうへい 1982年生まれ。東京工業大准教授(表象文化論など)。著書『スター女優の文化社会学』。