「晴れの日の木馬たち」(新潮社)の主人公は、まるで原田マハさん自身のようだ。小説やアートと出会い、道を切り開いていく主人公の人生を描く。「これは、私の話であり、あなたの話でもあります。自分の物語として読んでほしい」
明治末期、貧しい家に生まれ、倉敷紡績で工女として働く山中すてらは、小説を書くことに夢中になる。そして、社長の大原孫三郎からもらった芸術雑誌「白樺」で武者小路実篤のゴッホ評を読み、二人のように自分も「書き」続けようと心を燃やす。
大原社長は後に大原美術館を開館する。原田さんにとって大原美術館は、特別な場所だ。10歳の頃に訪れた感動が色あせず、初めてアートをテーマにした長編「楽園のカンヴァス」でも登場させた。今作では、その美術館の成り立ちを、すてらの物語と融合させることで立体的に描きたいと考えたという。
原田さんは、アートに携わる世界で働いた後、作家デビューした。すてらも、小説が好きで、アートに感銘を受ける。書き進めるうちに「私の映し鏡のような人」になったという。
「どんな状況でも、強い決意をもって挑戦していく姿を描きたかった」。すてらは、決して天才的な人物ではない。女性が筆一本で生計を立てるのが難しい時代だったが、諦めずに筆を執る。
「好きなことを手放さなかった人なんです。私の場合は、好きなことを手放さなかった上に、またさらに好きなことを見つけて掘っている」。最近は、映画の監督、脚本にも挑戦した。
「もし誰かが真剣に止めたらやらなかったこともあったかもしれないけれど、まったく止められなかった」。妄想めいた挑戦でも、見てくれている人、応援してくれる人はいる。すてらもそんな人たちに出会って、進んでいく。
「言葉にする、行動に起こすことで、人生が思わぬ方向に変わっていく可能性は誰にでもある。まずはすてらが、それを皆さんの代わりにやってくれる存在であってほしい」
今作は、すてらをパリへと誘い、幕を閉じる。原田さんはこれから、3部作としてすてらの一生を描ききるつもりだという。
1920年代のパリのアート界は、原田さんにとっても憧れだ。「パリに行ったら、素敵なことがいっぱい起こると思いますよ」。一方で、大戦の足音も迫ってくる。「彼女がどう生きていくのか、見守っていただきたいです。私もエンディングがどうなるかは知らないんですよ」(堀越理菜)=朝日新聞2026年1月28日掲載