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「定時に帰れるわけない」と考える自分が間違ってたのかも? ドラマ「わたし、定時で帰ります。」プロデューサー2人が語る仕事観

文:中津海麻子、写真:斉藤順子

 4月16日からTBS系で放送が始まる「わたし、定時で帰ります。」は、朱野帰子さんの同名小説が原作のお仕事ドラマだ。プロデューサーを務めるのはともに30代の新井順子さん、八尾香澄さん。新井さんは「アンナチュラル」「中学聖日記」、八尾さんは「重版出来!」や映画「ひるなかの流星」といった話題作を手がけてきたヒットメーカーだ。今回のドラマにかける思い、ドラマ制作という仕事の苦労とやりがいなどを聞いた。

 きっかけは、八尾さんが近所の本屋で原作本のタイトルに惹かれ、何気なく手に取ったことだった。「最初は『定時にそう簡単に帰れるわけない』とどこか訝っていたのですが、読み終わるころには、もしかしたら定時に帰れないと考えている自分の方が間違っているのかもしれない……と。普通の感覚を持った普通の女性が知らず知らずのうちに周りの人の気持ちを少し変えてくれる、そんなドラマが見たいと思ったのです」
 早速ドラマ化の企画を提案。折しも「働き方改革関連法」が施行されるこの4月、放映が決まった。

 主人公の東山結衣は、ウェブ制作会社で働くディレクター。過去の苦い経験から、仕事は時間内にこなし、周りからどんな目で見られても必ず「定時」で退社。行きつけの中華料理屋のハッピーアワーのビールに幸せを感じ、彼氏との時間を大切にしている。新井さんはこう語る。「積極的に周りに介入し、正義を振りかざす。それがお仕事ドラマの主人公の常道です。でも結衣は『そうじゃない』ヒロイン。その方が今っぽいんじゃないかな、って。原作の朱野さんからも『スーパーウーマンにはしないでほしい』と言われました」

©TBS
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 結衣を演じるのは、吉高由里子さん。「柔らかく軽やかで『お先に失礼しまーす』と定時に帰っても嫌味がない。親しみやすい等身大の姿に、きっと視聴者は自分に重ね合わせることができると考えました」と新井さん。職場には、会社に住み着く非効率男、辞めたがりの新人、仕事命の皆勤賞女……と、キャラの濃い同僚だらけ。その中で唯一「普通」の結衣を演じることに、吉高さんは当初難しさを感じていたようだ。しかし、撮影現場で八尾さんはこう確信する。「『普通』というのは実は一番難しい。でも吉高さんの結衣はいつも『自然体』で居てくれる。誰にでも気さくで、しなやかさの中にしっかり芯が通っている吉高さんを見て、まさに見たかった主人公そのものだと思いました」

 結衣の同僚で元婚約者の種田晃太郎役は、向井理さんだ。仕事はできるが超ワーカホリックという役どころ。「かっこいい役が多い向井さんを崩してみたい」(新井さん)、「敢えてシュッとさせない」(八尾さん)と、仕事以外は無頓着で、頭はボサボサ、ファッションもイケてないという晃太郎に。エキストラの女子たちが「あれ向井理じゃない?」「あんなにダサくないよ」と話しているのが耳に入り、新井さんは「よし!」と手応えを感じたとか。

©TBS
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 ほかにも発言が二転三転するクライアントや、それを安請け合いするブラック上司によって、結衣はやむなく残業、休日出勤をするようになり……。お仕事ドラマではあるが、しかし、新井さんと八尾さんが目指すのは「人間ドラマ」だ。「会社勤めをしていない人でも、『こんな話あるある』『こういう人いるいる』と共感しながら、自分ごととして見てもらえるドラマにしたい」と八尾さん。とはいえ舞台であるウェブ制作会社は、難しい専門用語が飛び交う世界だ。八尾さんは実際のウェブ制作会社を徹底的に取材。「お仕事ドラマとしてのリアリティーは追求しながら、リアルすぎて置いてけぼりになってしまう視聴者が出ないように。そこは苦労しました」

 一方でこのドラマならではのいい影響が。「定時で帰る」というテーマに現場の意識が高まったのか、「ほぼ撮影がスケジュール通りに終わり定時で帰れます」と八尾さんはニッコリ。「とにかく現場の雰囲気がよく、作品にもそれがにじみ出ていると思います」と新井さん。

 ドラマや映画のプロデューサーという仕事。華やかな印象があるが、しかし、「大変なことの方が圧倒的に多い」と二人は口をそろえる。「企画、脚本づくりからキャスティング、そして総勢100人近くになることもある現場を取りまとめなければなりません」と新井さん。八尾さんも「ドラマは1クール10話と撮影本数が多く、その分やることは常に山積みです。全速力で長距離走を走っているような感覚ですね」と話す。

 それでもドラマや映画を作り続ける魅力、原動力は? と聞くと、「オンエアされると同時に、『おもしろかった』『感動した』といった生の反響が届くのは純粋にうれしい」と八尾さん。新井さんも「ドラマを通じ、家族や友人に私がやっていることが伝わる。他の仕事ではなかなかないことかなと思います」と続く。一方で、注目を集める仕事だからこその苦悩も。たとえば視聴率。思うように振るわなかったとしても撮影は続けなければならない。「『私たちがやっていることは間違ってない』と現場の士気を上げるのもプロデューサーの仕事です」と新井さん。

 そうした壁にぶち当たったとき、どう乗り切るのか? 「飲んでグチる。これが一番!(笑)」という新井さん。今回のドラマでも、一番きつかったときに八尾さんと脚本家で飲んであれこれ吐き出したとか。「溜め込まないことが大事。グチったところで解決はしないけれど、一人じゃない、私だけじゃないと思えると、もうちょっと頑張るか! と奮起できる気がします」と新井さんは笑顔を見せた。

 最後に、改めてドラマの見どころは? 「お仕事ドラマでありながら、家族や周りの人たちとの問題も描いていて、どんな人でも自分ごととして共感していただけると思います。人間ドラマとして気軽に楽しんでいただきたいですね」と新井さん。八尾さんは「さらにLOVEもあります。元婚約者と喧嘩しながらも息が合う様や、ほっこりする今カレとのシーン、やがて見えてくる三角関係も。恋愛ドラマとしても楽しんでいただけるはず」

 この春、会社勤めをしている人もいない人も、仕事は「定時」で終わらせ、ビール片手にドラマを楽しんでみては?

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