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麻雀ファンくすぐる小ネタが満載 風刺の効いたブラックコメディー「麻雀放浪記2020」

文:野波健祐 写真:樋口涼 (C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

 「やっちゃいけない企画だと思ってましたね」
 はじめ、プロデューサーから映画化の話が持ち込まれたとき、白石監督はそう思っていた。
 「小説に熱烈なファンが多いのはもちろん、最初に映画化した和田誠監督版は日本映画史にさんぜんと輝く大傑作。あのクオリティーをもう1度といわれても、予算の問題もあるし、戦えるところが一個もないよな、と思ったんです」

 小説「麻雀放浪記」は、直木賞作家でもある故・阿佐田哲也(色川武大)の代表作。戦後まもなくの上野を舞台に、主人公「坊や哲」らが麻雀をはじめとする賭け事に命を削る群像劇だ。麻雀の打ち方やイカサマ術などを、麻雀牌を示しながら描写する手法が斬新で、後の麻雀小説や麻雀漫画に大きな影響を与えた。全4部からなるピカレスクロマンで、第1部「青春編」は1984年にイラストレーターの和田誠の手により、真田広之主演で映画化され、こちらも高い評価を得た。

 そんな評価の定まった作品の映像化依頼が白石監督のもとに寄せられたのは、今回の主演を務めた斎藤工さんが色川の半生を演じた映画「明日、泣く」(2011年)に出演した際、色川さんの妻と出会ったところに端を発しているという。

 「色川夫人がなんらかの形でもう一度映像化してほしいという思いを抱いていたそうです。お話をいただいた以上、原作を読み込みました。超絶面白かったです。いまの時代に、ああしたアウトローな人々は誰も残ってないだろうし、やればやるほど何でもできるだろうなと思える魅力的な小説でした」

 とはいえ、予算は限られている。そこで白石監督が思いついたのは、第2部「風雲編」のエピソード。イカサマを見破られた坊や哲が東京から大阪へと「とんずら」する際、夜行列車で博打大会にのめりこむ。「そんな一夜の物語にするのはあるかな、と思ったのですが、ミニマムすぎると却下されまして」

 もう降りるしかないと思ったところ、プロデューサーから提案されたのが、本作の根幹となるタイムスリップものだった。坊や哲が現代にタイムスリップしたら、彼の目にいまの日本はどう映るのか。

 「正直、半笑いでしたけど。ただ、昭和ゴリゴリの男である坊や哲が現代にくるアイデアには興味をもちました。コンプライアンス(法令遵守)にうるさい、いまの世の中で、コンプライアンスをはみだしまくった男です。やり方によっては、彼の姿を映し鏡にして、現代を描けるのではないかと思ったんですね。当時企画会議をしていたときは、北朝鮮がばんばんミサイルを撃っていたころで、そうした現代の日本をめぐる時事問題をどんどん入れていっていいかと言ってたら、プロデューサーがかまわない、と。いつの間にか僕がやらざるを得なくなっていました」

 「麻雀放浪記2020」は、坊や哲がとある出来事をきっかけに1945年の戦後から、2020年の「戦後」にタイムスリップする。予定されていた東京五輪は中止になり、彼の知る戦後とは別の意味で、荒涼たる東京の風景が広がっていた。進む少子高齢化、マイナンバーによる管理社会、AIがもたらした労働環境の悪化……。戸惑う哲は、どこかいわくのありげな地下アイドル・ドテ子(もも=チャラン・ポ・ランタン)と彼女のマネジャー・クソ丸(竹中直人)と出会い、元の時代に戻るべく、模索する。そんななか、彼の麻雀の腕が衆目の知るところとなり、現代の強者たちと一世一代の麻雀勝負に挑むことになる。果たして、哲はもとの時代に戻れるのか……。

 「基本的にはタイムスリップあるあるです」と白石監督が話すとおり、哲は社会の変容以上に勝手知ったる麻雀にとまどう。雀荘では、手積みだった麻雀卓は、全自動卓に。賭け麻雀が当たり前だった時代は過ぎ去り、健全な競技麻雀に。さらに、高い手を狙わずに、安く上がり続ける対戦相手に向けて、「こんなの麻雀じゃねえ」とキレる場面も。麻雀をめぐるギャップだけでも面白い。

(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

 加えて、麻雀ファンには楽しい小ネタが満載。哲の打ち筋をみて、「昭和の打ち方ですね」と解説するのは、バビィこと馬場裕一プロ。阿佐田とともに伝説の「麻雀新撰組」を結成した故・小島武夫を師とあおぐ森山茂和・日本プロ麻雀連盟会長がカメオ出演し、プロット協力者には漫画家の片山まさゆきさんの名前もみえる。和田版でもフィーチャーされていた、「二の二の天和」といったイカサマ技も登場し、ニヤリとするファンも多いはず。もちろん、哲と死闘を繰り広げるドサ健(的場浩司)や出目徳(小松政夫)、初めての想い人・ユキ(ベッキー)も登場。小説と和田版へのリスペクトが随所にみてとれる。

 「ほんと、おバカなブラックコメディーです。ただ、日本で風刺の効いたコメディーって作りづらい環境にあって、今回はちゃんとやってみようと思いました。そんなコメディーのなかで、坊や哲を演じた斎藤工さんはかっこいい斎藤工のままで、コメディー芝居をしていない。見終わった人が、なんだかバカやってる映画だなと思ったあと、ただ哲を笑っているだけでいいのだろうかと、ちょっとだけ考えてもらえればいいですね」