1. HOME
  2. ニュース
  3. 第23回手塚治虫文化賞決定 大賞に「その女、ジルバ」

第23回手塚治虫文化賞決定 大賞に「その女、ジルバ」

©有間しのぶ/小学館/ビッグコミックオリジナル

■大賞 「その女、ジルバ」(有間しのぶ、小学館)

 まさか、手塚治虫先生の名を冠した賞、それも大賞をいただけるなんて、まだ信じられません。いったいどれだけ手塚作品に育てられてきたか。好きな作品、好きなキャラクターだけで何日話せるか。知らせを聞いてから、毎日陶然としています。気を引き締めて、これからも自分の中の物語を追求していきたいと思います。
 受賞作の『その女、ジルバ』は、時々脳みそから水が出るんじゃないかと思うしんどさもありましたが、その分調べるのも描くのも面白く、たくさんの人に助けられた幸せな作品です。
 ネームを作らず、打ち合わせもほとんどしない私の勝手を、大きな度量で見守ってくださった担当の白石さんと中村さんのお二人、「ビッグコミックオリジナル」編集部には心から感謝しています。ありがとうございました。

 ありま・しのぶ 福島県会津若松市出身。現役女子高生時代に『本場ぢょしこうマニュアル』で「週刊ヤングマガジン」(講談社)にてデビュー。4コマ、ストーリー、ギャグ、BLなど様々なジャンルを描く。また文章でのストーリーや原作、俳句も手がける。趣味は散歩と愛猫との昼寝。

©有間しのぶ/小学館/ビッグコミックオリジナル
©有間しのぶ/小学館/ビッグコミックオリジナル

 『その女、ジルバ』 恋も仕事もどんづまりの40歳女性・笛吹新(うすい・あらた)は、高齢者ばかりのバーでヤングホステス“アララ”として働き出す。マスターやお婆ホステスたちの過去、ブラジル移民だった故ジルバママの歴史に触れながら、アララは自分の人生を新たに築きはじめる。

■新生賞 山田参助「あれよ星屑」(KADOKAWA)で、歴史の光と闇、人間の欲や業を鮮烈に描いた力量に対して

 戦後生まれの自分が先の戦争を描くことで、もっと叱られたりするんではないかと想像していましたが、『紙の砦』の作者である手塚御大の栄誉ある賞をいただき救われた思いです。
 過去を生きた人々に対して「現代の私たちと変わらない」、また逆に「彼らは現代の日本人が失った何かを持っているのだ」と考えすぎることにも躊躇があり、現代の自分たちにはのみ込みにくい感覚をそのまま漫画に持ち込むことは「わかりにくいこと」として嫌われる要素だと思われますが、そんな拙作の「のど越しの悪さ」を乗り越えて選んでいただけたことに感謝しかありません。
 ありがとうございました。

 やまだ・さんすけ 1972年大阪生まれ。94年に月刊誌「さぶ」(サン出版)でデビュー。以後、風俗誌、実話誌などで執筆。2013年から初長編『あれよ星屑』を「月刊コミックビーム」(KADOKAWA)で連載し、反響を呼ぶ。その他の作品に『ニッポン夜枕ばなし』(リイド社)など。

©山田参助/KADOKAWA
©山田参助/KADOKAWA

 『あれよ星屑』 敗戦直後の東京。心に闇を抱えた元陸軍軍曹の川島徳太郎は、闇市で雑炊屋を営みながら酒浸りの日々を送っていたが、無銭飲食で捕まった元戦友の黒田門松と再会し……。誰もが消えない傷を背負った時代の“生”と“性”を鮮やかに描いた焼け跡ブロマンス。

■短編賞 「生理ちゃん」(小山健、KADOKAWA)

 学生の頃から漫画が好きで絵を描いていたのですが、古本屋で父親が買ってきた藤子不二雄A先生の『まんが道 愛蔵版』を読んで、ぼくは漫画家になる夢を新たにするのではなく、なんて大変そうな職業なんや……漫画が恋人やとか言うとるし……こんなん絶対いやや(ふつうに人間の恋人ほしいし)、漫画家になるのはやめよう、と思いイラストレーターを目指すようになりました。満賀道雄と同じようには手塚治虫先生に憧れられなかったのです。
 晴れてイラストの仕事をしていたはずなのですが、いつのまにか『生理ちゃん』という漫画を描くようになりました。テーマ的に眉をひそめられることもなくはないのですが、手塚治虫先生は生前「漫画に必要なのは風刺と告発の精神」と発言されていたらしく、そのことがとても心強い金言となっています。

 こやま・けん 2014年『手足をのばしてパタパタする』(KADOKAWA)から活動を開始。17年に『お父さんクエスト』(ポプラ社)、18年に『生理ちゃん』(KADOKAWA/Webマガジン『オモコロ』連載)が大きな話題を呼び、19年に実写映画化。

©小山健/KADOKAWA
©小山健/KADOKAWA

 『生理ちゃん』 女性たちの元にツキイチで訪れる生理ちゃん。おなかにパンチをお見舞いし、注射器で血を抜き取って、クロロホルムで眠らせてくるけど「大変なのを生理を理由にできないのが大変なんです」と寄り添ってくれる。なにかと大変な女性たちの笑えて愛おしい物語。

■特別賞 さいとう・たかを(代表作「ゴルゴ13」の連載50年達成)

 若い頃、映画マニアで映画製作の道に進みたかった私は、家庭の事情で進学出来ず、その世界には大卒でないと入れないと知り悩んでおりました。そんな時、手塚先生の『新寶島』と出会いました。「これは紙で映画をこしらえられる!」と衝撃でした。
 それ以来、家業を継ぎつつ親の目を盗み作品を描き、18歳で大阪の小さな出版社からなんとかデビューすることが出来ました。手塚先生はまさに大恩人です。
 あれから64年になります。体力の衰えはいかんともし難いですが、この名誉ある手塚治虫文化賞特別賞の受賞を「ここまでやってきたんですから、もう少し続けてみたらどうですか」という手塚先生からの励ましのお言葉として、やれる限り頑張りたいと思います。
 ありがとうございます。

 さいとう・たかを 1936年和歌山県生まれ。55年に『空気男爵』でデビュー。60年に『台風五郎』がヒット。75年に第21回小学館漫画賞、2003年に紫綬褒章、10年に旭日小綬章受章。1968年11月から『ゴルゴ13』を「ビッグコミック」(小学館)にて連載開始、2018年に50周年を迎えた。一度も休載することなく現在も連載中。

©さいとう・たかを
©さいとう・たかを

 『ゴルゴ13』 特定の政治信条、倫理観を持つことなく、依頼主からの多額の報酬のみを根拠に行動する超A級スナイパー、ゴルゴ13。「ビッグコミック」にて連載が始まって以来50年。歴史、政治情勢、経済事情……絶え間なく変化する激動の世界各国を股にかけ、躍動し続けている。