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「書物の破壊の世界史」書評 繰り返される記憶と価値の抹殺

評者: 長谷川眞理子 / 朝⽇新聞掲載:2019年04月20日
書物の破壊の世界史 シュメールの粘土板からデジタル時代まで 著者:フェルナンド・バエス 出版社:紀伊國屋書店 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784314011662
発売⽇: 2019/02/28
サイズ: 20cm/739p

書物の破壊の世界史 シュメールの粘土板からデジタル時代まで [著]フェルナンド・バエス

 本書の著者は図書館学者で、イラク戦争後の2003年に、ユネスコ使節団の一員として、イラクでの図書館や博物館の破壊に関する調査を行った。そのときバクダード大学の一人の学生がつぶやいた言葉、「どうして人間はこんなにも多くの本を破壊するのか」という問いかけ。本書は、それに対する答えである。
 文字の記録は、現在のイラクにあたるシュメール地方で、何千年も前に始まった。そのころの書物は粘土板だが、それらを集めた図書館も創設された。しかし、書物の破壊はすでにそのシュメールで始まる。古代ギリシャでも、古代ローマでも、アラブ世界でも、権力者と彼らに賢者と呼ばれた学者たちの中には、何万冊もの書物を集め、壮大な図書館を作る人たちがいた。しかし、為政者が代われば都市が破壊され、そのたびに、図書館は標的となって蔵書が消滅した。
 スペイン人が南米を征服すれば、アステカの文書は破壊された。中世ヨーロッパの異端審問の時代には、人間も書物も何万と燃やされた。ナチスも、大虐殺を行っただけではなく、大量の書物を焚書にした。中国でも、古代から毛沢東時代まで、人間と書物の犠牲には事欠かない。
 なぜ、書物は破壊されるのか? 一つには、書物がある種の記憶の記録であるので、そのような記憶を抹殺したいと考える集団がつねに存在するから。二つ目は、書物が、思想、考え、価値判断の表明であるので、気に入らない考えを抹殺したいと考える集団がつねに存在するから。三つ目は、自然災害と近代戦争時の空爆。世界史は、なんと蛮行の歴史であるか。
 では、現在のデジタル化で、この状況はどうなるだろう? 一度ネット上に上がればなかなか消せないという強靱さもあるが、ちょっとしたことで読めなくなる脆弱さもある。それより、人々が書物を読まなくなることが最大の「破壊」かもしれない。
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 Fernando Baez ベネズエラ出身の図書館学者、作家、反検閲活動家。元ベネズエラ国立図書館長。