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図書館が就職や起業もサポート! 映画になった「ニューヨーク公共図書館」の取材で見えた日米の違い

文:篠原諄也、写真:有村蓮(場面写真は映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」より)

ーー日本と比べるとニューヨークの図書館にはどんな特徴がありますか?

 日本の公共図書館は知的好奇心を満たすために利用する「教養型」が一般的です。雑誌や本を借りたり、研究のために調査をする。ニューヨーク公共図書館もそういった側面がありますが、それに加えて人々の暮らしを幅広くサポートし、サービスが非常に多岐にわたっている。私も取材した時に「図書館がこんなことまでするの?」と驚きました。

ーーどういうサービスでしょう?

 たとえば、就職支援です。アメリカでは随分昔からワープロ書きで綺麗にレイアウトされた履歴書、またそれをオンラインで提出するのが一般的ですが、コンピュータが使えることが前提です。図書館ではコンピュータが無料で利用でき、操作講座、履歴書添削や模擬面接、Wifiルーターの貸し出しまでしています。図書館カードの番号を打ち込めば、有料オンライン職業技能講座をネット経由で無料受講できます。さらに面接のために、スーツやブリーフケースの貸し出しもあります。日本のハローワーク的な要素もありますが、より多角的に、また誰に対しても継続してサポートしてくれます。

ーー映画の中ではパソコン講座やダンス教室も取り上げられていました。なぜ、図書館がそこまで人々の生活をサポートしているのでしょう?

 日本とは歴史的な経緯が異なりますが、19世紀後半、市のビジョンある人たちは「ニューヨークを国際都市にするためには、知を育む空間が不可欠」との考えから図書館構想を練りました。特に鉄鋼王として知られるカーネギーは自助努力を重んじ、誰もが自ら学べる図書館に多額の寄付をしています。当時のニューヨークは「移民ラッシュ」で、人々は英語の読み書きや就職など自活支援を必要としていました。パソコンやネットを使いこなす能力は、現代の「読み書き」の基本ですし、図書館はコミュニティを強化する場であり、ダンスも人々が集う貴重な場と考えれば、それも意義ある支援だと思います。

ーートランプ政権は移民に対して厳しい立場をとっていますね。そんな今の時代に、図書館はどんな意義がありますか?

 逆にこうした時代だからこそ、図書館はプライドを持って仕事に取り組んでいると思います。 図書館はいかなる人種や政治・経済的背景の人をも平等に受け入れる極めて民主的な場所で、アメリカの民主主義を象徴する存在です。しかも誰もが無料で利用できますし、考えてみるとこれほど平等に開かれ、敷居の低い場所は世の中に少ないかもしれません。

ーー『未来をつくる図書館』で現地取材をしたとき、図書館の利用者はどんな感想を持っていましたか?

 取材では多くの方々に話を聞きましたが「図書館がなければ今の自分がなかった」と話す方がとても多かったです。皆さん様々な目的を持って図書館に来ていますが、専門を身につけてキャリアを築いた人、アーティストとして活躍するようになった人などはごく一例です。起業サポートをするビジネス図書館では、連日通って起業した方もいて「まさにアメリカン・ドリーム」だと語ってくれました。

 著名人では今年アカデミー賞脚色賞を受賞したスパイク・リー監督が、学生時代に他ではなかなか見つからないインディペンデント映画を集めたコレクション目当てに頻繁に通っていたそうです。

 

© 2017 EX LIBRIS Films LLC – All Rights Reserved

9・11テロ直後に図書館は市民に情報を提供した

ーー菅谷さんがニューヨーク公共図書館に関心を持ったきっかけは?

 初めて行ったのはコロンビア大学の大学院に通っていた1995年でした。ただその頃はリサーチの本を閲覧したり、「美しい建築」だと思うくらいで、表面的なことにしか目が行っていませんでした。

 それが大きく変わったのが、数年後にフリーランスになった時です。企業や大学に所属していないと、それまで当たり前に使っていたデータベースも使えなくなり、情報を得る機会に壁を感じたのです。有料商業データベースは個人契約が難しく、できても利用料金は高額でした。

 そこでデータベースを目当てに公共図書館に通い始めたのですが、頻繁に行くようになると、サービスの充実ぶりに、私が持っていた図書館のイメージが崩れていきました。さらに、私だけでなく毎日通っている人がたくさんいることに気づきました。彼らは、自分の暮らしや、やりたいことを実現させるために、司書や図書館の情報を貪欲に使い倒していました。サービスも充実していますが、それを使いこなす人もすごい。アメリカの図書館をもっと知りたいと思ったんです。

ーーそれで取材をするようになったんですね。

 よく周りから「どうして図書館が次の本のテーマなの?」と驚かれました。私のそれまでの関心はメディアや情報社会だったので関連性が見えにくかったと思います。私にとっては、図書館もある意味での「メディア」のような存在です。例えば、日本の図書館ですと、すでに出版されたものを集めて貸し出すことがメインですが、ニューヨーク公共図書館は、それに加えて独自に「情報」を作り出しています。情報というと「メディア」を通して伝えられると思いがちですが、世の中にはそれ以外にも社会的に価値ある情報がたくさんあり、それを図書館が生み出し、かつ、情報収集や読み解く方法、コンピュータやリテラシースキルまで教えているのが面白いと感じました。

ーーどういうことでしょう?

 たとえば、同時多発テロ事件直後には、連日、このニュースで持ちきりでしたが、マスメディアには生活に密着した地元市民向けの情報が抜け落ちていました。知人の安否確認、電気などのインフラ状況、精神的に落ち込んだ人も多く、カウンセリングや人と集う場所を必要としている人、参考になる本などです。そんな暮らしに根ざした情報の必要性を即座に察知しローカル情報を提供したのも図書館でした。すぐにウェブサイトを立ち上げ、更新を続けました。日頃から地域の人たちや組織と深く繋がり、情報を独自にデータベース化していたので、担当者はすぐに対応出来たと言っていました。

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「透明人間になって、人々を観察しているよう」

ーーニューヨーク公共図書館を取材した菅谷さんからみて、ワイズマン監督の映画はどうでしたか?

 この映画は図書館の利用者やスタッフの考えや行動、サービスの事例を映し出した断片の集まりです。ナレーションや背景説明などもありません。でも、それこそがニューヨーク公共図書館とは何かを紹介する上で、一番ふさわしい手法だと思いました。観客である私たちが、ワイズマン監督の手によって「透明人間」になり、様々な現場に立ち会い、観察させてもらうというような。最初は「これが本当に図書館なの?」というエピソードの連続に驚き、見終わる頃には、「こんな図書館があったらいいな」と感じるはずです。

 ただし、長い映画ですが、取り上げられているのはごく一部ですから、ワイズマン監督がどんな要素を映画に入れ、どんなものを取り上げていないのか。また、どういう順番で、どういうストーリー展開になっているかも考えながら観てみると、監督のメッセージもより鮮明になり、映画をより深く味わえると思います。

ーー日本の図書館は今後どのように変わっていくといいでしょう?

 日本社会が抱える課題である高齢化、格差社会の進行、新規産業の創出、女性の育児と社会復帰、さらに終身雇用の崩壊で職が不安定になるなど、人生の様々なステージで支援が必要な人がさらに増えていると思います。そんな社会構造の変化をみて行くと、実は図書館にはそれらを解決する上での大きな可能性があることがわかります。日本の図書館も徐々に変わってきていますが、この映画や本を読んで頂くことで、図書館が持つ大きな潜在性を知って頂けたら嬉しいです。