30年にわたりフランスの写真通信社の契約フォトグラファーとして戦場を取材してきた橋本昇さんのもとにある日、デジタル化を済ませたフィルムが大量に返却されてきた。光に透かしてみると、あの時、あの場所の光景、音や臭いまでまざまざとよみがえる。「見てきた事を見てきたままに伝える」ため、若い読者に向けて書いたのが『内戦の地に生きる』だ。
1992年のソマリア、94年のボスニア・ヘルツェゴビナやルワンダ……。2001年のアフガニスタンや03年の南スーダン……。
ルポとモノクロ写真が、死と飢餓、破壊とあきらめの日常を映し出す。だが、絶望だけではない。戦火を生き延びた幼児の乾いた涙、戦場と化した街頭で抱き合う若い恋人、1枚のナンを仲間と分け合うストリートチルドレンの笑顔に、ぎりぎりの希望がのぞく。
それにしても、地球上ではなんと多くの悲劇が繰り返されてきたことか。そして太平と飽食に慣れきった私たちは、繰り返される悲劇をなんと簡単に忘れてしまってきたことか。(今田幸伸)=朝日新聞2019年6月1日掲載
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