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宇宙と生命 切り開かれる地球外の可能性

土星の衛星エンケラドス内部の想像図=米航空宇宙局(NASA)提供

 アメリカ航空宇宙局NASAは、しばしば「重大発表」を事前にアナウンスして記者会見を開く。今年になってからも2回行われた。
 1度目(2月)は、地球からおよそ39光年離れたトラピスト1という恒星が、惑星を七つ持ち、そのうち最低三つが液体の水が存在しうる「ハビタブルゾーン(居住可能な領域)」にあるとするもの。2度目(4月)は、土星の衛星エンケラドスの海底に生命が生息しうる環境(具体的には熱水活動)の証拠を見つけたというもの。太陽系外と太陽系内、別系統の研究で立て続けに、地球外生命の存在の可能性について語られたのが印象的だった。

18人が謎に挑む

 『宇宙には、だれかいますか?』は、新興分野、宇宙生物学に参集した研究者18人にインタビューした労作。宇宙物理学、天文学、惑星科学、生物学、化学などの専門家たちが生命をめぐる謎に挑む様には興奮させられる。
 研究者ごとの相場観の違いが興味深い。例えば「知的生命体は発見できるか」への回答は、「いる」「いない」「ロボットなら」というふうにばらけるし、「見つけたらどうするか」には「銀河系についての知識を交換したい」という知的欲求派から、「あまりにも危険。直接接触することはお勧めしません」という慎重派まで様々な見解が飛び交う。その一方、「知的」かどうかは置いて、地球外の生命の可能性を否定する者は誰一人としていないのである。
 宇宙に生命を探す一方で、人類が宇宙に出ていくシナリオもあるはずだ。太陽系外に飛び出すのは現時点ではまだSFだが、火星への移住ならすでに視野に入っている。

火星移住計画も

 『マーズ 火星移住計画』は、充実したビジュアルとがっつりした情報の両面で楽しめる。ページをめくるたびに来るべき「宇宙世紀」の予感が高まる。
 たとえばNASAは2030年代に有人探査を計画しているし、火星都市化計画を進めるアメリカの民間宇宙開発企業スペースXは20年代に火星へ人を送り込むという。耳を疑う人もいるかもしれないが、目標が掲げられ、そのためのロケットや宇宙船や居住技術が開発されているのは紛れもない事実だ。
 通読して感じたのは、ひとたび人類が居住する場所として認識した時点で、火星は「自然環境」になること。1990年代後半から積み重ねられてきた探査の結果、夏ごとに液体の水が地表に流れ出る地域があり、地中に大きな帯水層があることも分かっている。火星の地下には微生物がいるかもしれない。とすると、自然環境や生物多様性の保全といったことを当然考慮しなければならなくなる。きわめて近い将来、我々が直面する問題だ。
 宇宙と生命の起源、そして、人類が進出する宇宙。いずれにしても「宇宙と生命」にまつわる研究は、新たな段階に入る。どんどん切り開かれる最前線の知識を咀嚼(そしゃく)するためには「今なにが分かっていて、何が分かっていないのか」を知っておきたい。
 そのために好適なのが、『人類の住む宇宙』。日本天文学会による教科書のシリーズの第Ⅰ巻で、タイトルに象徴されるように、この宇宙を「人間が住む」場所としてごく自然に捉える。10年ぶりに改訂され、重力波の直接観測(宇宙規模の研究)、太陽系外惑星の発見(銀河系規模の研究)、気候変動(太陽系内の惑星規模の研究)などが拡充された。大学教養課程レベルを想定して書かれているので、一般書よりもちょっと背伸びをした知識に手が届く。今、手にすれば、これからの新たな10年、参照しうるだろう朝日新聞2017年6月4日掲載