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「アイデンティティが人を殺す」書評 特定の「帰属」が正しいわけではない

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2019年06月29日
アイデンティティが人を殺す (ちくま学芸文庫) 著者:アミン・マアルーフ 出版社:筑摩書房 ジャンル:学術文庫

ISBN: 9784480099266
発売⽇: 2019/05/09
サイズ: 15cm/192p

集団への帰属の欲求が、他者に対する恐怖や殺戮へつながってしまうのはなぜか−。複数の国と言語、そして文化伝統の境界で生きてきた著者が、新しい時代にふさわしいアイデンティティ…

アイデンティティが人を殺す [著]アマン・マアルーフ

 人はみな、国籍、言語、民族、宗教など、その人が誰であるかに深くかかわる「帰属」先をもつ。時々の情勢により、これらのいずれかが特に重要なものとして浮かび上がり、対立や支配や排斥ーー最悪の場合には殺戮ーーを生み出すことがある。たとえばイスラム教の危険視や、肌の色による差別、英語の覇権と他言語への圧迫など。
 しかし実際には、個々人の中では多様な「帰属」がからまり、かつ一生を通じて変化する。そして特定の「帰属」が正しいわけではない。誰かを「悪魔扱い」し、多数派が少数派を踏みつける欲望が世界中で浮上している現在であればこそ、その無意味さに抗い、多様な存在の生きる場所を調整によって確保してゆく必要があると著者は説く。
 著者は、レバノンで生まれ、アラビア語を母語とし、キリスト教徒で、フランスに長く在住している著名な作家である。本書にはその人生の中での葛藤が映し出されている。