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朗読劇「ドラゴン桜」でモデルのLIZAさんが女優初挑戦 人生はグレーのまんまでいいんだよって伝えたい

文:福アニー、写真:篠塚ようこ

弱い自分を乗り越えた方がいい、と思わせてくれる物語

 14歳から女性誌などで活躍するモデルのLIZAさんが、7月13日から始まる朗読劇「ドラゴン桜」で女優デビューを果たす。「ドラゴン桜」は元暴走族の弁護士・桜木建二が、学校立て直しのため勉強が苦手な生徒・矢島勇介と水野直美を東大合格に導く漫画が原作で、ドラマ化もされた人気作だ。今回LIZAさんが演じる水野の第一印象は?

 「あまり勉強ができない学校に通っている生徒ではあるけれど、たまたまそういう環境にいるだけで、根はすごくいい子だし素直。ただ感情表現が苦手で不器用だから、あまり人に自分の感情を出さないんです。居酒屋をやっている母親と同じ道を歩きたくないってふつふつとした思いも感じましたし。でも初めて『俺についてこい』って桜木先生に言われたことで、自分のなかにあるものがどんどん変わっていって、勉強してみようって気持ちが開けていきますよね。台本を読む限り、原作より勝気でギャグ要素が強いと思いました。

 『ドラゴン桜』はなにかがんばりたいことがあるけど諦めてしまいそうな弱い自分や、逃げたくなってしまう気持ちを、それでもなんとか乗り越えたほうがいいんじゃないかって気持ちにさせてくれるお話だと思います。私も今回、演技自体が初めてなので、最初にお話をいただいた時は『本当にできるのかな? 大丈夫かな?』ってすごく不安になって。実は通し稽古もまだでなにも始まっていないので、怖がって逃げ出したくなる自分がいることもわかるんです(笑)。だから、物語の内容といまの状況を重ね合わせて見ているところがありますね」

踏み込んでみてから合っているか決めればいい

 30歳の節目の年に、女優に挑戦するLIZAさん。そもそものきっかけはなんだったのだろうか?

 「14歳くらいからモデルやテレビのお仕事をさせていただいていたんですが、演技だけは一度もやったことがなかったのでやってみようと。もともと映画がすごく好きで、演じることにとてもリスペクトがあるので、いままで逆にその道に踏み込めなかったんです。でも、踏み込んでみてから合っているか決めればいいじゃないかと思い至りました。

 映画は洋画をたくさん観ます。好きな映画だと何十回も観ますし、家では映画の音を消してBGM代わりに音楽をかけて、そのまま一日中流していることもあります。本当に何度も鑑賞しているのはクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』。幼い娘がいる男性が居住可能な新しい惑星を探しにいく話なんですけど、去年くらいにふとまた観たらかなりずっしりきてしまって、それ以来ずーっと観てますね(笑)。私は目に見えるモノよりも、目に見えないモノのほうが本当だと思うから、そっちを信じるんですよ。それをすごい証明してくれる映画ですね。ものすごく現実逃避できるし、父と娘の描写とか愛だなって思います。人生っていろいろ大変なこともあるけど、生きてくのも悪くないなって改めて思わせてくれるんです」

 以前、「いまはモデルの活動だけしていますが、いずれは人々の心に入っていけるような言葉を発することのできる人間になりたい」と言っていたLIZAさん。朗読劇はナレーションより抑揚や強弱をつけるがお芝居ほど身振り手振りはないイメージで、ちょうど両方の難しいところが求められそうだ。そんな言葉で魅せるお話が来たときにどう思ったのか。

 「モデルと言葉のお仕事は似てるところがひとつもないかもしれない。でもまったく違うからこそ、新鮮でいいのかなと思いました。演技はしたことなかったんですが、ナレーションなど声のお仕事はしたことがあって、それがものすごく好きだなと感じていたんです。モデルは洋服に命を吹き込んでそれを見せる仕事なので、声だけで感情を表現したり人の心に入ったりするのは難しそうだけど奥深いだろうなと。

 なので今回、朗読劇をやらせていただけるのは不安でもありつつ楽しみでもあります。ましてや30歳になったばかりで高校生の役なので、高校生らしい声ってどんなだろうとか考えますよね。でもそこはあえて、まったく気にせずやりたいです。どうしたって高校生にはなれないし、どのトーンを演出の川野浩司さんがいいねって言ってくれるかも想像つかないから、違うものは違うものとして高校生の心情になれば、それで気持ちは伝わるのかなって思います」

また365日かけて30歳になろうと思う

 「ドラゴン桜」は東大を目指す高校生の物語。ドイツ人の父親と日本人の母親の間に生まれた自身の学生時代を振り返ってみて、教育や勉強で印象に残っていることは? 

 「私は日本の学校に行ってなくてインターナショナルスクールでドイツの教育しか受けてないんですが、『一番できるものをひとつ見つけて自分の個性をどんどん伸ばせ』『とにかく自分の意見を持て』って叩き込まれましたね。小学生の頃から先生は見守って、子ども同士で討論会をさせたり、喧嘩が始まったらちゃんとふたりで解決しなさいと言ってくれたり、言葉で解決することを学びました。あとドイツは16歳で大人だと認められるので、そのときにもう先生と同等だから敬語を使ってほしいかどうか聞かれるんですよ。それって裏を返せば、なにをしてもいいけど自分の言ったことや起こす行動は自分で責任を取るんだよっていうことなんだなと思って。自立しなさいって育てられ方ですね。でも『ドラゴン桜』の桜木先生は、『まず型をしっかり勉強しろ』ってみんなに言いますよね。水野も矢島もそんなこと言われるのが初めてでどういうことだって混乱するんですけど、自分もそうで、『なるほどな』と思いました。

 私が通ってた学校は学校の勉強も家でやる宿題も本当に大変で、小学1年生から普通に落第しちゃう子もいました。そのなかで、『やるっきゃない』って姿勢を学んだかな(笑)。モデルと勉学を両立できたのは本当に母のおかげで、感謝しかないです。学校が遠くにあったので、毎朝5時くらいに起きてスクールバスで通う。学校が終わったら母親が門の前で待っててくれて、車で仕事現場まで行って撮影して。そのあと編集部で机を貸してもらって勉強して、それでも母はずっと待っててくれて、お家に送り届けてくれました。母がいなかったらできなかったし、誰よりも近くで見てくれて応援してくれてたので、とてもありがたかったです」

 こと勉強のみならず、人生を豊かにしてくれる読書。普段はどんな本を読んでいるのだろうか?

 「小説も人生哲学の本も読みますが、基本的にドイツ語の本を読んでます。少し前まで家族でドイツに住んでいた9歳上の兄がいるんですけど、私は日本にいてドイツ語の本がなかなか手に入らないから、しょっちゅう電話しておすすめの本を送ってもらっていましたね。

 あと英語で読んだんですが、江本勝さんの『水は答えを知っている』が好きですね。水にいい言葉をかければ凍らせたときも綺麗な結晶になる。人も90%以上が水でできているから、ちゃんと綺麗な言葉で接するべしという本で、好きな映画の『インターステラー』に通じるものがあるというか。こういう水や宇宙の神秘に興味があるのは、子どもの頃から現実よりも妄想するのが好きだったから。公園に行ってもみんなと遊ぶんじゃなくて、遊んでるみんなをブランコで見ていろいろ考えるというような(笑)。それはドイツ流の教育を受けてきたけど日本で生活していかなきゃならない、そのギャップや戸惑いからきていたのかもしれません。小さい頃はドイツ語しかしゃべれなくて、自分はドイツ人だと思っていました。でもお友達はみんな目が青くてブロンドなのに、私は見た目が日本人。日本の子どもたちと一緒にダンスの習い事をしていても、挨拶や所作など日本独特の風習がわからないからそれも上手にできない。どこにいても中途半端だなっていうところから、ちょっと引いて観察するクセがついたんだと思います」

 思い描く理想の女性像は「しなやかでみんなに優しい。強いけど本当はすごくやわらかい。はたから見守れる女性がいいな」というLIZAさん。型にはまらない主体的な女性という印象を受けた。平成元年に生まれ、令和元年に新しい挑戦を控えるなか、「このままでいいのかな」という人たちにエールを。そして今後の抱負は?

 「いまも葛藤を抱えながら生きているんですけど……。でもどんな仕事をされてる方でも、もう疲れてしまった、向いてないんじゃないか、続けることをやめて違うことをしてみたいってよぎることはあると思うんですよ。何度も逃げたくなるけどがんばって、って繰り返しが人生なような気がします。若いときのほうが私は絶対これでいく、これが正しい、この考えが合っているっていろんなことを強気で言えてたけど、大人になるといろんな経験もしてそう言い切れなくなる。白か黒かではなくグレーって人生のすごく大きな部分を占めてるんだっていまは思うので、もし悩まれてる方がいたら、グレーのまんまでいるのが生きてくってことなんじゃないのかなって伝えたいです。逃げたいときもあるし、もうちょっとやりたいときもあるしっていうのでいいんだよって。自分に言い聞かせてるところもあるんですけど(笑)。

 振り返ってみると14歳でモデルを始めて30歳になるまで、あっという間でした。また365日かけて、30歳になろうって気持ちです。誕生日その日に30歳になるわけじゃなくて、その自覚をもって、31歳になる前の日までにちゃんと30歳になってればいいなって。がんばります!」