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鈴木敏夫さんが好きな本「キップをなくして」 いろんな子、認められてこそ

鈴木敏夫さん=2019年7月4日、東京都渋谷区、相場郁朗撮影

 どうでした? この本。公にも言っているんですけど、これをジブリでアニメ映画にできないかなと思ってるんですよ。問題は、今は改札で駅員さんが挟(はさみ)を入れるキップじゃないから、そこをどうしようかと。そこをなくすとこの話が壊れちゃうからね。

 この本を読んだのは5年ほど前。とっかかりは、池澤夏樹さんの『読書癖』という書評集。書評というと最後は評者に引き寄せて書く人が多いのに、池澤さんは本当に本の内容を紹介してくれて、どこがおもしろいか指摘してくれる。書評されている本も読んだりして、僕のなかで池澤ブームが生まれて。それで池澤さんの本を全部買ってぽつぽつ読み始めた中にあったんですよ。

 山手線でキップをなくした子が東京駅に集められ「駅の子」として電車通学の子供の安全を守る。いろんな子供が集まってきて、勉強できる子が下の子に教えたり、いじめで不登校になった中学生が居場所を見つけたり、みんなの成長の姿を描いていく。生と死の問題も、子供に本当にわかりやすく教えてくれる。名作です。

 東京駅が舞台というのもアニメ向き。「千と千尋の神隠し」の湯屋みたいに、駅の構内を上に行ったり下に行ったり。やってみたいですね。

 根っこには子供時代に読んだ『十五少年漂流記』みたいなアニメを作ってみたいというのがずっとあるんですよ。この本と似ています。小中学校時代を振り返っても、先生はだれを大事にするか透けて見える。そうじゃなくて、いろんな子供が価値を認められて生きていける世界を描きたい。そこに今やる意味があると思うんです。(聞き手・久田貴志子 写真・相場郁朗)=朝日新聞2019年7月17日掲載