米国の画家エドワード・ホッパーの絵に想を得て文豪たちが競作した『短編画廊 絵から生まれた17の物語』(ハーパーコリンズ・ジャパン)が刊行された。絵と物語を一緒に楽しめるこの本を企画したのはミステリーの大御所ローレンス・ブロック。彼の作品を田口俊樹さん、スティーヴン・キングを白石朗さん、ジェフリー・ディーヴァーを池田真紀子さんが、敬愛の念を込めて翻訳した。
刊行を記念して東京・銀座の「銀座 蔦屋書店」で6月、田口、白石、池田の3氏によるトークイベントが開かれた。「80歳を超えたブロックさんの短編の中でも、収録の『オートマットの秋』はベスト3に入る」と田口さんは絶賛。米国で流行した自動販売方式のダイナーを舞台に、訳者好みの貧しく品の良いヒロインが巻き起こす事件。その鮮やかさと余情がホッパーの絵と響き合う。
キングの「音楽室」は、夫婦の穏やかな会話からダークな真相がじわじわと迫ってくる。白石さんは「絵を題材に、など、ちょっと縛りをつけることでかえって作家たちの奔放な持ち味が出てくる」と語る。
「線路沿いのホテル」の絵から手紙形式の物語をつくったのはディーヴァー。失態を演じたソ連の大佐の苦しい釈明を訳した池田さんは、翻訳の面白さを趣味の写真と重ねる。「マニュアルでピントを合わせると、自分だけに見える世界が浮かび上がってくる。原文を読んだ段階ではぼやけている小説の世界も、日本語に直すうちにだんだんピントが合っていくのが楽しい」
絵の解釈をがらりと変えてしまう、物語の逸品ぞろい。読者もぜひ絵から物語を考えてみてほしいと訳者たちは勧めている。(藤崎昭子)=朝日新聞2019年7月24日掲載
編集部一押し!
- 売れてる本 小原晩「これが生活なのかしらん」 ほの明るく照らす生への執念 植木一子
-
- とりあえず、茶を。 知らない人 千早茜 千早茜
-
- えほん新定番 柳田邦男さん翻訳の絵本「ヤクーバとライオン」 真の勇気とは? 困難な問題でも自分で考え抜くことが大事 坂田未希子
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 自力優勝が消えても、私は星を追い続ける。アウレーリウス「自省録」のように 中江有里の「開け!野球の扉」 #17 中江有里
- BLことはじめ 「三ツ矢先生の計画的な餌付け。」 原作とドラマを萌え語り! 美味しい料理が心をつなぐ年の差BL 井上將利
- 谷原書店 【谷原店長のオススメ】梶よう子「広重ぶるう」 職人として絵に向かうひたむきさを思う 谷原章介
- トピック 【直筆サイン入り】待望のシリーズ第2巻「誰が勇者を殺したか 預言の章」好書好日メルマガ読者5名様にプレゼント PR by KADOKAWA
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社
- インタビュー 物語の主人公になりにくい仕事こそ描きたい 寺地はるなさん「こまどりたちが歌うなら」インタビュー PR by 集英社
- インタビュー 井上荒野さん「照子と瑠衣」インタビュー 世代を超えた痛快シスターフッドは、読む「生きる希望」 PR by 祥伝社