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関心から少しずれてみる知の旅路  遊歴書房@長野市

トタン張りの天井はビニール工場の名残で、大きなライトをしつらえた=長野市東町

 書物は中身が肝心だが、背表紙もまた多くを語りかけてくる。

 7坪の部屋の真ん中、低い台に置かれた地球儀のそばに立ち、天井に届く四方の棚に並んだ無数の古書の背を眺め渡す。『ローマ帝国衰亡史』があり『ミシェル 城館の人』があって、『航海の世界史』にカントの著作、水木しげるの漫画がある――何でもある。

 一個の知的迷宮を成そうということか、8年前この「遊歴書房」を始めた宮島悠太さん(41)によれば、惹句(じゃっく)は「歴史を旅する古本屋」だという。長野市の善光寺から歩いてすぐ、ビニール工場だった建物のなかに古今東西の知見の集積場をつくった。新刊書店に勤めていたが、「管理職になるよりも本に触っていたい」。

 古書はただ並べてあるのではない。世界の地域ごとに大きく分かれ、その地にまつわる様々な本が隣り合う。世界を旅してある町に行けば、古代遺跡も現代美術もあって、ご飯屋さんもある、通りでは子供たちが遊んでいるでしょ――若い時分に海外を放浪した宮島さんはそう語る。小学生の時にはアメリカで4年間暮らしていた。

 「アマゾンの検索やおすすめではたどり着かない本もある。自分の関心領域から少しずれてみる、斜めにずれる。買わないまでも知的な刺激になると楽しいのではないか、もっと豊かに生きられるのではないか」

 店内には7千冊ほどが並ぶが、倉庫にも古書は多くあり、在庫はホームページで検索できる。(福田宏樹)=朝日新聞2019年8月28日掲載

 ◇売れ筋
 ●『中島敦全集Ⅰ』(ちくま文庫) 本書収録「山月記」で知られ、赴任先のパラオでかの地の人々と関わった作家を知る一冊。
 ●『城下の人 新編・石光真清(いしみつまきよ)の手記(一)西南戦争・日清戦争』 石光真清著(中公文庫) 満州などで諜報(ちょうほう)活動をした陸軍将校の4部作、第1巻は日清戦争従軍まで。