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あふれる手塚治虫愛、創作を後押し 黒田征太郎さん×矢部太郎さん「火の鳥」対談

トークイベント「作家LIVE『火の鳥』と僕たち」で話す黒田征太郎さん(左)と矢部太郎さん

黒田 黒田征太郎です。何をしゃべるのかわかんないけども、火の鳥にさらわれてここに来てんのかなと思っております。

矢部 矢部太郎です。よろしくお願いします。「小説 火の鳥 大地編」、楽しく読ませていただいてて、黒田さんの絵も、毎回「すごいなあ」と思って見させてもらってるので、すごくうれしいですし、いろんなお話、楽しみです。

 先ほどここで、黒田さんがパパっと、いきなり描いてくださったのが……大家さんなんです。もうすごい速さで。素晴らしい作品を。(会場拍手)

矢部太郎さん(右)との対談中に絵を描く黒田征太郎さん=高橋雄大撮影
矢部太郎さん(右)との対談中に絵を描く黒田征太郎さん=高橋雄大撮影

『新宝島』の衝撃、リアルタイムで

――まずは、手塚作品との出会いについて聞かせてください。

黒田 大阪の焼け跡、闇市ですよ。僕はおふくろが買い出ししてくるのを待ってるわけですね。ふっと見たら、木箱の上に本が積んであった。それが手塚治虫さんの『新宝島』だったんです。
矢部 そのとき、買ってもらったんですか?
黒田 泣き叫んで買ってもらった。でも、『メトロポリス』とか『ロストワールド』とか、そういう作品が次に出てくるんですけども。これはもう泣いても買ってくれません。お金ないから。新聞配達をして、お金がたまったら、手塚さんの漫画を買う。

矢部 『新宝島』は、リアルタイムで読まれた方にとってどういう衝撃だったんでしょうか。
黒田 小学校では、先生が「絵は写真のように描け」と言うんですね。僕は写真のようにものごとを進めるのが嫌いな性格やねん。面白くない。そんなときに、「新宝島」を見て、ピート君が疾走している……。
矢部 冒頭の、車のシーンですね。
黒田 そう、オープンカーなんて、見たこともないんだけど。
……ここにピート君が乗っていてね。(スケッチブックにクレヨンでスケッチしながら)
矢部 すごい。黒田さんの線ですね。
黒田 こうやって、疾走しているタイヤがぺっちゃんこだった。後ろに電柱が立ってるんだけども、これがまっすぐじゃなくて、こう曲がってんのよ。で、「すごい走っとるな」と。「手塚治虫さんは俺の前に現れた神様や」って。

矢部 絵が動いているっていう。
黒田 うん。それが僕にとって、大事なことだった。こういうこと、学校では教えてくれなかった。
矢部 僕も『新宝島』は、すごく衝撃でした。でも、いろいろ漫画を見た上で、その元にある作品だっていうことを知って見ている世代なんですね。改めて見て、やっぱりすごい、ここから始まってるんだっていうことを知ったんです。
黒田 僕も手塚さん以前に漫画は見てないわけじゃないんですよね。「タンクタンクロー」とか「のらくろ」とか。でも、こういう絵の押し出し方は手塚治虫さんが初めてで、首根っこをつかまれたなと。
矢部 『新宝島』は、よく「映画的表現」という風に紹介されますけども、黒田さんがおっしゃられてるのは、そういうこととも違いますもんね。
黒田 うん。この時点では、違うんですね。何と言っても、当時、たくさん占領軍のジープが走っていて、「おれにも、ちょっとゆがんで見えてるやん」ということです。
 だから、「こんなん、あるのかい!」と思った。そういう絵を描く人であり、そういう大人。漫画そのものよりも、先生と違うこと言ってくれる、こんな大人がいてるんだ、ということに、「うおー」となったんかな。

矢部 そういう衝撃を受けて、こういう絵につながってるんだなと。黒田さんは、自由というか、既成概念にとらわれることなく描かれてる感じがするんです。
黒田 生きてるのに違う人がいててええねん。僕は俺のために絵描いて、俺のために生きてます。80年かかって、そう思います。重たそうなもの持ってるきれいな人がいたら、持ってあげようかとか言いますよ(笑)。でも、まずは自分だ。それを一番、「新宝島」のピート君が僕に教えてくれたんじゃないかな。だから、僕はあまりストレスないんですよ。みんなそうしましょう。(会場笑い)

黒田征太郎さん=高橋雄大撮影
黒田征太郎さん=高橋雄大撮影

手塚作品は「神様の教典」

矢部 僕の場合は、いろんな漫画が好きで読んでて、マンガ家の方のインタビューとか読むと、絶対手塚さんが出てくるんです。藤子不二雄さん(安孫子素雄さんと藤本弘さんの共同ペンネーム。解消後は、それぞれ藤子 不二雄Ⓐと藤子・F・不二雄を名乗る)とか、大友克洋さんとか。小さい頃すごく好きだったんですが、少女漫画、青年漫画、少年漫画と、どんなに違う漫画を書いてる人も、みんな手塚治虫さんのことを言う。すごいぞってことで読んで、やっぱり衝撃受けました。藤子不二雄Ⓐ先生『まんが道』の影響も大きいです。

 その辺りから入ったので、「神様がいるぞ」という感覚で、手塚作品は「神様の教典」という感じで読み始めました。それから90年に、手塚先生が亡くなられた後に東京国立近代美術館で開かれた「手塚治虫展」を見たんです。やっぱりあの膨大な作品の量。これを一人の人が描いたんだ、すごいなと思って。

 そこから、ファンクラブに入ったんです。もうお亡くなりになってるんですけど、手塚先生の漫画や手塚先生について書かれた評論も読んで、もっと知りたいなと思ったら、もうファンクラブ入るしかない、と思って。

黒田 僕は手塚漫画に夢中になって、漫画家になろうと思ったんですよ。その当時、投稿少年だった人達が、石ノ森章太郎さんとか、赤塚不二夫さんとか、藤子不二雄さん。いまの安孫子さん、アビちゃん。僕はみなさんと仲がよかった。
矢部 「アビちゃん」って呼ばれてるんですか、A先生のこと……。
黒田 結局、僕は手が不器用なんです。コマ割りして描いて、3コマ目ぐらいで、主人公の顔が変わってしまうんですね。
矢部 それはまずいですね。主人公ですもんね。
黒田 世間はユニークだとか、特異なやつやでとか言って、助けてくれてるんですね。

手塚さんの手はでかくて、強かった。

――黒田さんは手塚さんに一度お会いになったことがあるとか。

黒田 はい。広島で、ジャズのラッパ(サックス)を吹く坂田明と2人で、ライブをやっていたんです。終わってほっとしていたら、向こうから手塚治虫さんのような人が歩いてくる。
矢部 もう、ベレー帽にめがねですか?
黒田 うん。「うそやろ?」と思って。最初は、誰かが俺を喜ばそうとインチキやってるんかなと思ったら……
矢部 コスプレして。
黒田 どうやら、手塚治虫さんが、僕の手塚狂いを誰かにお聞きになって来られたんです。坂田に「自分、手塚治虫さん知ってるの?」って聞いたら「いや、知るわけないだろう」って。で、手塚さんに、「おーい、黒田君」って言ってもらって、僕はびっくりしたんですね。たまたまイベントがあって近くにいらしたから、顔ぐらいみてやろうということだったと思う。で、あんまりそういうこと思わない人間なんですけど、「うおー」と思って、握手だけしてもらって。

矢部 どっちの手で?右手ですか? 
黒田 それ以来、何も触ってません。(会場笑い)
矢部 手塚先生のぬくもりを間接的に……。どんな手だったんですか?
黒田 でかかったですね。でかくて、強かった。グッと握ってもらって。うれしかった。

手塚治虫と握手したことがある黒田征太郎さん(左)。その力強さを矢部太郎さんに伝えた=高橋雄大撮影
手塚治虫と握手したことがある黒田征太郎さん(左)。その力強さを矢部太郎さんに伝えた=高橋雄大撮影

――矢部さんはもし手塚先生に会ったら?

矢部 え~、やっぱり、火の鳥のことを聞きたいかもしれないですね。手塚先生が亡くなられたってことで、完成だとは思うんです。そうですけど、もしも会えるなら、「もう一回書いてください」というかもしれないですね。あとは、こっそり、僕の漫画を見せて、「ばかやろう」っていって放り投げて欲しいですね。「こんなもの」っていって。

「火の鳥」のテーマは戦争することの空しさ

――漫画「火の鳥」で手塚治虫は、繰り返し戦争を書きました。「小説 火の鳥 大地編」は日中戦争の時代を描いています。どのように読まれていますか?

矢部 「火の鳥」自体、手塚治虫先生の中でも、もう本当に大好きで、本当に繰り返し、一番読んでると思うんですね。中学校の図書館に置いてあって、休み時間にも読んでたんです。その頃の僕は、友達があんまりいなくて、悩みがあったけど、「火の鳥」を読むとそういったことがちっぽけに見えるようなスケールの大きな話で。

 過去から未来にわたって、人類が何度も戦争を繰り返すんですよね。その空しさが、過去と未来を往復しながら俯瞰で描かれる物語で、より浮き上がってくる気がしています。戦争することの空しさは、「火の鳥」のテーマとしてあるなと思ってるんですが、それは桜庭さんの今回の「小説 火の鳥 大地編」にもやっぱりあるんです。

 13回目で、「プロメテウスの火」っていう言葉が出てきます。今まで手塚さんが描いてきた「火の鳥」だと、火の鳥の不老不死の力を手に入れたいっていう人間の愚かさだったり、火の鳥の力を巡って争うことが描かれたりしていましたが。桜庭さんの「大地編」では、火の鳥の力そのものを武器として使おうとするような展開が出てきた。すごく新しい、2019年の「火の鳥」が始まったなっていう感じが出ていて、今も続きが読みたいです。毎回毎回気になる終わり方するんです。すごくひっぱりますよね? 1週間待てないんですけど(笑)。本当に、この人に裏がありそう、みたいな感じとか。マリアとか超謎で、小出しにしてる感じがあって。

黒田 僕は、1939年生まれで、戦争と一緒に生まれたんです。「征太郎」の「征」は、関東軍参謀長の板垣征四郎さんの征をとったみたいです。今、北九州市の門司港に住んでるんですが、絵を置くのに使っているビルが、満州建国のときに、拠点になった場所らしい。たぶん、これから先、火の鳥を求める人たちは、満州という傀儡(かいらい)国家、無理やり作った国に向かうんじゃないか。満州は登場すると思うんで、いまから勝手に描いたり……。

矢部 まだ出てきてないのに? それが桜庭さんに影響を与える可能性もありますね。
黒田 人間って、生まれたら何かに翻弄(ほんろう)される。「俺は俺の為に生きる」なんて息巻いてるけど、実際は無理ですね。どっかに世の中にひっかき回されて生きてくしかないと思うけども、僕の目で記録はしてやろうと。でも、独り相撲はしたくない。みんなで、できればやりたい。

小説よりも先に挿絵が出来上がっちゃってる?

矢部 僕は、黒田さんの挿絵の書き方に、すごく興味があります。特殊な描き方されてると思うんですね。桜庭さんの小説と完全にリンクさせるとか、整合性をとるとかそういうものではないような気がしてて。
黒田 作家の野坂昭如さんは、いろいろと書かれるものに絵をつけさせて頂きました。でも、原稿を読んだのは最初の1回だけですね。
矢部 え~? 読まないで描いてたんですか?
黒田 僕は野坂さんを描いてたんです。「火の鳥」は、桜庭さんが困られたりするんじゃないかと思って気をつけていますが、野坂さんのときは、お互い困らせようと思ってやってますからね。殴り合いのけんかになったこともあります。
矢部 そういう関係性だったんですね。それは小説の絵のことでですか?
黒田 いや、そんなことじゃないですよ。「野坂さん、ボタン外しすぎてかっこ悪いですよ」「お前から言われたくねぇよ」とか。
矢部 ええ⁉ いや、すみません、しょうもないことで……。
黒田 でも、それがうれしかった。ある週刊誌で、1年分53枚を1日で描いたことがある。編集者に渡して、「野坂さんには言わないでね」と。

矢部 小説よりも先に挿絵が出来上がっちゃってるってことですね。
黒田 野坂さん遅筆だから、編集者は最終的に読めるけど、僕は読めないんですよ。結局ばれてしまって、野坂さんに言われました。「お前ほど楽な生き方できる人間ていないな。もう1年分描いたらしいやないか」。ま、そういうのもあってもいいのかな。

矢部 今回も、もうすごい量の絵を描かれてるとか。
黒田 何枚やったかな。朝日新聞の「火の鳥」の係の人が、もう100枚だか200枚書いてると。
矢部 (対談時で)まだ連載17回ぐらいですけど(笑)。
黒田 僕は桜庭さんのストーリーに出てくるやつらの中の一員だと思って……
矢部 ああ、火の鳥調査隊の一員として。
黒田 はい。そういうのもあってもいいじゃない。ダメだったら、首切られたらいいわけですからね……切らんといてくださいね。
矢部 あはは(笑)。いまのところOKみたいですね。毎回どういう絵が出てくるのか楽しみです。期待値がすごく高いのは、そういう風に描かれているからかもしれないなと思いました。

矢部太郎さん=高橋雄大撮影
矢部太郎さん=高橋雄大撮影

描くときの「読んでもらうこと」への意識

黒田 作者がいて、それに挿絵があって、読んでくれる人がいて、やっと成立すると思うんですね。紙をすいてくれる人がいて、絵の具作ってくれる人がいて、描く人がいて、見てくれる人がいてやっと成立するわけでしょ?
矢部 僕は舞台でやる仕事では、その感覚、その三角形をすごい意識するんです。お客様がいて、聞いていただくことで、浮き上がってくる、立ち上がってくるものだと思っています。黒田さんは、絵についても自然に、描くことと、見てもらうことが地続きになっている感じがします。僕も、描くときに意識してるのかもしれないけど、その意識には無自覚だと思いました。

黒田 矢部さんは持って生まれた体の中に、そういう感じがあるんじゃないですか? 気取ってもしょうがないで。(会場笑い)
矢部 そう。新潮社の方も見てるし、とか思っちゃったりとかして。
黒田 僕、矢部さんのお父さんも知ってるんですよ。偶然、太宰府で、お父さん(絵本作家のやべみつのりさん)と会って、長いこと一緒にいてたよ。お父さん、絶対言わなかったわ。自分のこと。
矢部 そうなんですか? うちの家族、僕のこと結構内緒にしてるんですよ。(会場笑い)。姉なんか弟いないっていう設定で生きてますから。

――矢部さんが漫画を描かれるときの「読んでもらうこと」への意識について教えてください。

矢部 この漫画を書くときは……まあこれしか描いたことないんですけど、僕。やっぱり読んで欲しい人ってのは、イメージしていましたね。大家さんにどうしたら読んでもらえるかなとか、コマ割り難しくしたら大家さん読めないだろうなぁとか、すごく考えながら書いてました。

黒田 矢部さんがこのマンガを描かれるときに、おばあちゃんに見てもらいたかったというのが、僕はうれしい。それを他の人が見て心動かされる、ということでしょう? 一人ひとりが懸命に生きて、隣の人も懸命で、それが広がっていったらよくなんねんけども。

 矢部さんの漫画、悔しいけど80万部売れてんて?(会場笑い)。それはね、80万人の人がやっぱり心動かしたんですよ。僕も面白かった。本当に、心がある、という感じ。ただ面白がらそう、ということだけじゃない、矢部さんが正直におばあちゃんに反応して、おばあちゃんから感じた、おばあちゃんから受けたことを描いているでしょ。

黒田征太郎さん=高橋雄大撮影
黒田征太郎さん=高橋雄大撮影

「火の鳥」で気になるキャラクターは?

――黒田さんは「大地編」を描いていて面白いキャラクターは?

矢部 聞きたいです。
黒田 それは幼いころ見て、面白そうな人だなと思っていた、アセチレン・ランプ(「小説 火の鳥 大地編」では、「犬山」として登場)とかね。それから、一番興味があるのは、火の鳥がどうやって姿を変えていくか。

 たったいま決めたことですけど、「小説 火の鳥 大地編」とは別に「黒田の火の鳥シリーズ」っていうのを、作ろうかな、と思ってます。そういうことですよね?おれらの仕事って。

矢部 ああ、そういうこと……(会場笑い)。でも、そのどんどん進めるっていうのがすごいですよね。僕なんかも何度も考えちゃって。

黒田 絶対やるよ。矢部さんも。
矢部 え?「矢部の火の鳥」ですか?「矢部の火の鳥」、すごい地味そうですね。(会場笑い)

――矢部さんはいかがですか?

矢部 自分を当てははめて読むということでいうと、ルイですかね。みんなそれぞれの正義、それぞれの生き方があって、いろんなことの板挟みになっている。すごく好きなルイのシーンで、急に月明かりの下で歌い出すんですね。
 「スキだけど、裏切るの。
 スキだから、裏切るの。
 それが、僕の愛し方……」
 ちょっとどういうことか意味わかんないんですけど(笑)、でも、すごいいいんですよね。
 その後の、「それから両手のひらで顔を覆うと、この世のすべてのものから自分の表情を隠した」っていう表現もすごい。
 これは連載第6回なんですが、デジタル版には新聞紙面に掲載されていない絵が掲載されていて、その絵と、ビターッとあって、すごくよかったんです。デジタル版は絵が二倍楽しめていいんですよ。

黒田 自分がやってるんじゃなくて、何かにやらされているんだなと。オーバーに聞こえると思うんですけど。僕はなにより絵が好きでしょうがないんですよ。
矢部 描くことが、本当に黒田さんの大きな部分なんだなと感じました。常に描いているっていう感じですね。

矢部太郎さん=高橋雄大撮影
矢部太郎さん=高橋雄大撮影

ゴールが見えなくても、火の鳥は飛ぶ

――矢部さんは『大家さんと僕 これから』を刊行されて、物語としては完結と伺っています。漫画はこれからも描かれますか?

矢部 描けたら描きたいなと思ってるんですけど、僕は、黒田さんのように手が動くとか、どんどん描くという感じではなくて、手塚先生みたいに、バーゲンセールするほどアイデアがあるという感じでもない。漫画を描いたことはなかったんですが、大家さんと出会ったから、それを描いてみたら描けたっていうのが1冊目。
 もう1冊目で全部描いたかな、でも「もう1冊」と思ったら描けたのが、2冊目で。だから、ちょっとわからないです。描きたいなとは思ってます。

――矢部さんの作品の世界観に引かれている読者は多いはずです。

矢部 手塚先生のお名前の賞を頂いたことは大きかったです。2冊目の『これから』は、1冊目の『大家さんと僕』を読んだ人が期待しているような内容ではないかもしれないな、と思いながら僕は描いていました。でも、1冊目で、いろんな人に読んで頂いて大きな評価も頂いたことで、次は違うものを描いてもいいんじゃないかというところに、考えが至りました。賞は、その大きなきっかけでもあったんですね。だから、次を描くきっかけが、きっとあると思います。

黒田 お話聞いていて、やめる理由とやる理由は五分五分だったと思う。たぶん、それがせめぎ合っている。僕は、生まれてきた以上はやった方がいいと思う。ゴールが見えないでも走ろうぜ、と。ゴールが見えなくても、火の鳥は飛ぶと思います。それが宿命じゃないか。
 亡くなっていても、僕は手塚治虫さんに描かされているもん。そう思う。でないと、やってられませんよ。

矢部 僕もそうですね。描かされてる一員に……。
黒田 そうでしょ? 終わり‼

(構成・滝沢文那=朝日新聞文化くらし報道部記者)

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