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太宰は理性を全て取っ払った人 成田凌さん、映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」に出演

文:永井美帆、写真:斉藤順子

 公開に先立って行われたジャパンプレミアに、監督の蜷川実花さんや主演の小栗旬さんらとともに登場した成田凌さん。完成した映画を「『美の暴力』みたいな作品」だと語っていた。その言葉の通り、伊豆に暮らす静子の部屋は華やかな桜色で彩られ、三鷹の富栄宅には真っ赤なネオンが差し込むなど、目を奪われるような美しい映像が連続する。

 「撮影現場もあのまま。本当に映画の中にいるみたいで、街も、店も、壁に掛かっている絵ひとつとっても、ぜいたくな空間でした。太宰の晩年、1940年代後半の物語なので、当時を再現しようとすると、単純に古びた椅子を持ってくるとか、あるじゃないですか。でも、映画の中ではこの時代の時間が流れているわけで。だから、ちゃんときれいなんだけど、どこか懐かしい雰囲気があるような椅子が置かれていました。そういった細部へのこだわりもすごいし、あとは実花さんの現場らしく、いたるところに花がありましたね。やっぱり気分があがります」

 モデルとして、これまで写真家・蜷川実花さんと仕事をすることもあった。「実花さんとは数年前から何度かご一緒することがあって。写真の現場も、映画の現場も、実花さんは実花さん。全く変わらないんですよ。いつも明るくて、一番現場の空気をつくってくれている人。映画の撮影中も、『今日は大事なシーンだから、ドレス着て来ちゃった』って。あと、雑誌の編集者やファッションデザイナーなど、実花さんのお友達が現場にいらっしゃることもあって、あか抜けた現場でしたね」

 蜷川監督作品、小栗さん主演と聞いた時点で「迷いは全くなく、自分も参加できることがうれしかった」と話す。成田さんが演じた佐倉潤一は、太宰に関わったとされる数人の編集者の要素を集約した、映画オリジナルのキャラクターだ。「佐倉は太宰のことを心から尊敬している一方で、太宰の嫌な部分をたくさん見ていて、心底軽蔑している。相反する気持ちを抱えたまま、太宰を支えていくという役柄だったんですけど、目の前に小栗さん演じる太宰が現れたら、もう飛び込むしかないなって。ある意味、気楽にやらせてもらいました」

©2019「人間失格」製作委員会
©2019「人間失格」製作委員会

 当初、蜷川監督のもとに舞い込んだのは、小説『人間失格』を映画化して欲しいという依頼だった。「『人間失格』は太宰の自伝的作品と言われるけど、調べていくうちに、むしろ太宰自身の人生の方が相当おもしろかった」(蜷川監督)。そして、美知子、静子、富栄という太宰を取り巻く3人の女性たちが残した手記を読み込み、脚本を固めていったという。成田さんに太宰の魅力を尋ねると、「女性の気持ちは分からないけど、男からするとどこか危険なにおいがする人を格好良いと思ってしまうんです。緊張感とかリスクと戦いながら、常に『格好良い』ことが最優先に来ている。太宰って、男から理性を全て取っ払ったみたいな人ですよね。理性を失った人。『人間失格』ってすごく良い題名だと思います」。

 劇中では型破りで、疎まれることもあった太宰だが、演じた小栗さんについては「気さくのレベルを超えている人」だと言う。「撮影中はもちろん、最近もご一緒する機会が多いのですが、いろんな人に好かれている理由が分かりました。周りのことをよく見ているし、褒め上手だし、よく笑うし。すごく愛にあふれた人で、気付かされることも多いです。昨日もごはん食べに行って、お酒飲んで、帰りに歩いていたら、急に走り出して。僕も付いていくしかないじゃないですか。『急にどうしたんですか!?』って聞いたら、『夏がそうさせた』って言っていました(笑)」

 幼い頃から、漫画より小説を読んでいたと話す。「漫画は買ってもらえなかったけど、小説なら買ってもらえたんです。今も昔も、読みながらついキャスティングしてしまいます。このキャラクターなら、この俳優だなって。『この役は絶対に自分がやりたい!』と思うこともあります。中村文則さんの『銃』もその一つだったんですけど、友だちの(村上)虹郎がやるって聞いて、めちゃくちゃ悔しかったです」。しかし、「でも、今度やりたかった役が出来るんですよ」とうれしそうに明かしてくれた。「詳しいことはまだ言えないんですけど、ずっと『やりたい!』と思っていたら、巡り巡って僕のところに来てくれました。自信もあるので、きっと良い感じになると思います」

 最近は、日当たりの良い部屋で、コーヒーを片手に読書する時間が気に入っていると話す。「一人喫茶店みたいな。性格的に、一つのことに夢中になり過ぎるとうまくいかないので、あえて1回離れるようにしています。髪形がうまく決まらない時は、1回トイレに行って戻ってくると、すんなり決まるとか。撮影に入って、『何か余裕がないな』って時にはあえて本を読んで、別の世界に行くようにしています。僕にとって読書は、気持ちを切り替えるための大切な時間です」

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