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KAKATO(環ROY×鎮座DOPENESS)&オオクボリュウ「まいにちたのしい」インタビュー 声に出して全身で感じるフィジカルな絵本

文:宮崎敬太、写真:佐々木孝憲

最初は「俺らでできんの?」って感じでした

――どんなきっかけで絵本を作ることになったんですか?

鎮座DOPNESS(以下、鎮座):編集の人がKAKATOのライヴに来てくれて、直接企画を話してくれたんですよ。俺らが言葉を作って、オオクボくんが絵を描く絵本をやりたいって。正直、最初は「ホントにやんの?」「俺らでできんの?」って感じでした(笑)。

環ROY(以下、環):僕は「(絵本のオファーが)いつか来ないかなー」くらいに思ってたのでワクワクしました。NHKの「デザインあ」とかもKAKATOでやらせてもらってたし。でも実際にやるのは初老の頃だと思ってた(笑)。

オオクボリュウ(以下、オオクボ):実は僕とKAKATOの2人は10年以上前から知り合いなんですよ。PSG「寝れない!!!」(2011年)のPV以前に作ってたアニメーションをROYくんが見てくれてて、「フライヤーを作ってほしい」とコンタクトしてくれたのが一番最初。でもちゃんとした作品は一緒に作ったことがなかったので、今回はすごくいい機会でした。

PSG “寝れない!!!”

鎮座:絵本のオファーをもらったのが去年(2018年)の3月だから、発売までだいたい1年半くらいか。音楽の世界だとアルバム一枚作るのにこんなに時間をかけないけど、絵本だとこれが当たり前。っていうか、むしろめちゃ早いくらいなんだって。5〜6年かかってる絵本もザラみたい。

環:そういうタイム感の業界なのかも。でも改めて考えてみると、絵本には“旬”がないほうがいいんですよね。例えば雑誌とかだと、読まれる期間が決まってるから時代性を意識しなきゃいけないけど、絵本は流行り廃りとは違う場所にあったほうがいいじゃないですか。普遍的な世界観を望まれるというか。だから絵本業界って、作っている過程で、普遍性が引きずり出されるように、制作期間が意図的に長くなっていったのかなと思いました。いま、完全に思いつきで言ってるけど(笑)。

オオクボ:極端な話、発売日が1年遅れても支障ないんですよ。それくらい時間に縛られてない世界。

オオクボリュウさん
オオクボリュウさん

具象だけど抽象な、サイケデリックな絵が描きたかった

――制作はどのように進行したんですか?

鎮座:俺らと編集者2人の計5人がブロンズ新社でお茶しながら、ひたすらお喋りしてましたね。“作業”感はゼロ。とにかくおおらかな雰囲気でした。

環:そのお喋りの中から編集の人たちが方向性を探って導いてくれた。この絵本は俺ら3人の名義だけど、みんなで作ったって感じがすごいします。

オオクボ:結構最初の段階で編集の人から「どんな絵を描きたい」って聞かれたので、僕は物体Aが物体Bに変化していく間の、AとBが混じった、でもそのどっちでもないような絵が描きたいと答えたんですよ。具象だけど抽象というか。そのサイケデリックな感じが好きなんです。例えば人が車に変化するアニメを描くとして、二つの絵をトレース台に重ねると、人と車の中間の絵は、線を辿っていくだけで、半ば自動的に描けちゃうもんなんですよ。それがおもしろいなって感覚が自分の中にはあって。

鎮座:それで「じゃあそういう絵が描けるような言葉を探そう」という話になったんだよね。いっちばん最初に作った言葉が「つきをめざすうさぎ ぴょんぴょんおもいめぐらし ハネつづけたけっか バネになっちゃった」。AがBに変化していく連想ゲームみたいな感じ。

環:他にもうさぎからうなぎになるのも考えたよね。でもその感じでいくと作品としてのオチがないね、って話になりました。散文的で、物語の進行にも乏しい。それで絵から言葉を考えるのを一旦やめて、みんなで前提となるテーマを考えることにしたんです。いろいろ話している中で、子どもの1日を描くことになった。

オオクボ:そうそう。僕はアブストラクトな絵を描きたかったから、主人公は男の子でも女の子でもない、でもどっちでもあるような、犬でも猫でもなんでもいい感じに見える造形にしました。

鎮座:そういうテーマをベースに俺らも言葉を作り始めたんだけど、最初はもっとかっちりしてた。「あさおきた たいようだ でかけるか」みたいな。さらに言葉数がもっと多くて、「ぴかぴかひがし のほうからひかり ようようたいよう さんさんおはよう まんまんうままん パンあさごはん たべたらちっち おしっこうんち」みたいに、もっと具体的で表現も今ほど崩れてなかった。あと最初はもっと赤ちゃんをイメージしてたかも。

環:そこからまたリュウくんが絵を描いてくれたんだよね。そしたら「絵があるなら言葉は具体的じゃなくてもいいね」ってことに気づいた。「パンあさごはん」の「パン」は見れば分かるもんね、って。で、俺らは読んだ時の音を意識して言葉を選ぶようになった。

環ROYさん
環ROYさん

イメージを形にしていく編集者の力を感じた

――ラッパーとして絵本の言葉を作った感想を教えてください。

鎮座:この絵本はリズムがすごく重要な要素なんですよ。それは間違いないんだけど、実際、どうやって言葉を作ったかの記憶はかなりぼんやりしてる(笑)。みんなで話してる中で自然に生まれてきてるもの多いんですよね。

オオクボ:みんなでお菓子食べながらなんとなく話して「それ良さそうですね」みたいな(笑)。

環:僕らが適当にこういうのは?って投げると「面白い!」とか返ってきて「あ、ホントですか? じゃこれで」とかでしたね(笑)。月に1〜2回程度集まって、毎回4〜5時間くらい。それを1年以上続けてましたね。

オオクボ:僕らは絵本のバランス感覚がよくわからなかったんですよ。だから何をどこまでやっていいのか、常に編集の人たちに判断してもらってたんです。僕も最初はかなりトリッキーで複雑な絵を描いてました。でも絵本は子どもがパッと見てわかるということが大事みたいで、そういう部分をどんどん簡略化していった感じですね。

環:言葉に関しても、絵本の作法があるんだろうなっていうのはなんとなく感じていました。ただ僕らはまだそれを明確に言語化できない。

鎮座DOPNESSさん(右)
鎮座DOPNESSさん(右)

鎮座:そうね。でも俺らラッパーが絵本の作法を意識するとわざとらしくなっちゃうだろうなっていうのもあって。中途半端っていうか。でも何回かみんなでお茶してると徐々に絵本の作法が脳みそにインストールされてくるんですよ。で、ある時「あっ、俺はラッパーだった!」って再確認したことはありましたね(笑)。だから俺らはラッパーとしてお茶会に来て、その空気感の中でしっくりくるものを手繰っていった感じなんです。

環:絵本制作では編集者の力をすごく強く感じました。てか、書籍の制作ってそうなんだなって。別件での体験もあって感じています。僕らはすごくボヤっとした雰囲気の中にいたけど、そこから編集の人が俯瞰視点で方向性を示してくれました。

鎮座:だから何気ない会話の中から絵本に採用されてるアイデアも多い。リュウくんはこの絵本を作り始めた時にお子さんが生まれてるし、ROYにも小さい子どもがいる。2人はそんなに意識してないかもしれないけど、結構子どもの話もしてたんですよ。家に帰ると小さい子どもがいるから、そりゃ当然ですよね。そのムードが蓄積されて絵本に反映されてると思った。

オオクボ:そっかあ。本当に僕らは全然意識してなかったですね。でも確かにうちの子どもは絵本のオファーをいただいた前後くらいに生まれてるんですよ。

鎮座:じゃあ今1歳半ってこと?

オオクボ:そうです。育児と絵本制作の過程が一緒(笑)。育児に関しては常にバタバタしててあやふやだけど、ちょうど1歳になった頃に絵本の全貌が見えてきたのは覚えてます。

環:その頃はタイトルが違ったんだよね。

鎮座:『いいいちにちに』。

オオクボ:でも、営業の人に「ちょっと覚えづらい」って言われて(笑)。

環:その日のことは猛烈によく覚えてる。今まで一緒にみんなで和気あいあいとやってきたのに、編集の人たちが「タイトルは次回まで考えてきてください」って急に突き放してきたんですよ(笑)。

鎮座:俺らもダラダラやってるとタイトルできなそうだったから、お茶会が終わった後に3人で近場を散歩しながら考えたんだよね。3人だけで考えたのはあれだけ。

環:あの時、鎮さんはすっごい早く帰りたがってたよね。

鎮座:そこは否定しない。『いいいちにちに』は俺が考えたんだけど、すっごい気に入ってたんだよ。だからNGが出た瞬間にどうでもよくなって、さっさと決めたいモードになってた。きっと俺は自分が否定されたように感じて、傷ついてたんでしょうね(笑)。

オオクボ:『いいいちにちに』は全部韻を踏まれてて面白いタイトルですよね。

環:母音が全部「い」だったからよくなかったのかな。「あ」「う」「お」はみっちりしてるけど、比較すると「い」は細い感じがしますよね。「あかさたな」って「あ」が続くより、「いきしにち」って「い」が続くほうが口が難しいとか?

鎮座:「い」かぁ……(笑)。

KAKATO(環ROY×鎮座DOPENESS)の『まいにちたのしい』(KAKATO ぶん・オオクボリュウ え)

理路整然とした環ROYと壊していく鎮座DOPENESS

――言葉はどのように作っていったんですか?

環:さっきリュウくんが絵の話をしている時、「複雑だった絵を簡略化していった」みたいなことを話してたけど、言葉もまさに同じでどんどん要素を減らしていきました。それだけで成立するギリギリのラインまでいった感じ。これは短期間じゃできなかったと思う。

オオクボ:うん、最初はもっと大人っぽい言葉があった。

鎮座:テーマが固まったあと、俺らは1曲をイメージしてそれぞれ言葉を作ってきたんですよ。ただ32ページというのは決まっていたから削ることは前提になってた。

環:とはいえ、削られると悲しい気持ちになるんだよね。だけど完成品を読むとやっぱり削る前の言葉はうるさかった。残ってる言葉が一番いい。だから削ってよかったです。

鎮座:ちなみに俺の案が採用されてるのは2箇所だけ……。

環:いやいや、2箇所だけってことはないですよ。補足すると、全体の基礎設計が僕で、内装工事が鎮さんみたいな役割分担だったんです。物語の構造は僕が組んで行って、要所要所で「しゅたたたたっち」「んひゅんひゅ」「とろりんちょす」みたいな壊れたような、引っかかりのある言葉を鎮さんが置いていく。僕が作る整然とした空間に、鎮さんが不思議な家具や壁紙を取り付けていくみたいな、自然にそういう関係になっていました。僕だけだと、整ってはいるけど、引っかかりに欠けたかもしれないです。あと、単純に「一曲作る感じで行こう!」ってイメージもあったので、サビの役割って言いかたもできますよね。

オオクボ:この文章にはものすごく2人のキャラが出てると思いますよ。ファンの人はどっちがどこを書いたか、読めば結構わかるんじゃないかな? ちなみに鎮さんのパンチラインのところでは、絵もサイケデリックで変なものが入ってるんですよ。説明にならない絵っていうか。

鎮座:ちょうど真ん中の見開きのとこだ。

環:最初は全体の構成も違ったもんね。1番(物語A)- サビ(擬音)- 2番(物語B)- サビ(擬音)でした。それこそ歌曲のような。

オオクボ:でしたね。でも「なんかくどいね」って話になって、1番(物語A)、サビ+間奏(擬音)、2番(物語B)という構成に変わった。それで鎮さんの擬音も真ん中にまとまって。サビ二つ分の濃い言葉が凝縮されてるから、それを受けて絵もものすごく変な感じになってる。

ものすごく描き直してるけど全然苦にならなかった

――オオクボさんは言葉ありきで絵を描いたんですか?

オオクボ:言葉というより、全体のストーリーに合わせて、見開きのイメージで絵を描いてました。それをお茶会に持っていって、みんなで言葉と合わせる。そうすると細かいところを調整しようという話になって。実は絵が一番変わってるんです。

鎮座:ここ(絵本)にたどり着く過程にあった絵もすごく良かったんですよ。実は完成にたどり着くまでには、何層も塗り重なった歴史があって。ちなみに、ボツの絵は今俺の家にあります。好きすぎて持って帰りました(笑)。

オオクボ:確かにものすごく絵を描き直してるんだけど、僕自身は大変とか辛いみたいな感覚はそんなになかったんですよね。毎月お茶会の2日前くらいに宿題を思い出して、「やべ、ラフ描かなきゃ」みたいな感じでやる、みたいな(笑)。2カ月で完結するような仕事と比べるとかなりおおらかな気持ちでやれました。

環:やっぱ絵本はそれくらいの感じが大切なんだろうね。あと文字のデザインも素晴らしい。オリジナルフォントをデザイナーの菊地くんが作ってくれた。

オオクボ:このフォントはいいですよね。文字に見えない、図形っぽいというか。YouTubeの動画で2人はすらすらと読んでるけど、普通の人は絶対あんなふうに読めないと思う(笑)。絵本にはみんなが普通に使ってる日本語しかないけど、この並びだと一瞬わからない言葉があったり。

環:そうなんだね。僕らはリュウくんの絵がすごいっていうのはわかるけど、言葉に関しては「たいしたこと言ってないよなー」くらいの感覚なんだよね。

鎮座:もちろんネガティヴな意味じゃないよ。手抜きしたわけじゃないしね。最初は「できんの?」だったけど、途中からは「なんとか形にしてやろう」って気分だったし。ただ俺らは自分たちのどこが絵本にアリなのかって判断ができなかったから、毎回お茶会に来て、その雰囲気の中でスキルとアイデアを提供してた感じ。

環:もう少し時間がたったら「僕らの書いた文すげー」って思えるかな(笑)。とりあえずいまは、みんながどんなふうにこの絵本を読んでくれるのか気になりますね。僕らはこんなふうにも読んでます。

KAKATO(環ROY×鎮座DOPENESS)のもっと『まいにちたのしい』(KAKATO ぶん・オオクボリュウ え)

鎮座:声に出して読んでほしいよね。知ってる言葉でも、声に出して読むと実はいろんな音の出し方があるのがわかると思う。言いやすいリズムとか言い方もあるだろうし。

環:全身を使って読む絵本ですね。

鎮座:そう。フィジカル。寝ながら読むってよりか、立って歩いて体全体で読んでほしい。ちょっと恥ずかしいかもしれないけど、自分でいろいろ試して読むのが絶対に楽しい。

オオクボ:子どもが読んで楽しい本であると同時に、大人にも評価されたい思いはありますね。

環:ストレート! 僕もそう思います!

鎮座:リュウくんが一番ヒップホップだね(笑)。