昔から本の虫で、紙の香りをかぎながら本屋をぷらぷら歩くのが好きなんですが、この本は表紙のルソーの絵「夢」にひかれて思わず手に取りました。ジャケ買いです。ベターッとしていながらも熱がこもっているような感じが不思議で気になっていました。
この1年で読んだ本のなかでも、久しぶりに「持って行かれる感」があったというか、没頭することができました。しつらえはミステリーですけど、作品のなかでもう一つの物語が展開する。作品の登場人物と自分がシンクロして一緒に読んでいる感じなんですね。結末が楽しみな一方で、永遠に終わってほしくないなって思うような。でも正直言うと、結末はもう少し納得させてほしかったなぁと。期待が高まったがゆえの思いも……。
原田マハさんはキュレーターをされていたので、美術界の華麗な舞台裏も楽しみでした。私は絵画も大好きで、海外に行くと一日中美術館で過ごすこともあるんです。なのでルソーとピカソがパリで出会って、どこまで本当かはわからないけれど温かい友情を交わす場面が素敵でした。お互い刺激し合いながら絵を描いていた情熱が伝わってきました。この世に存在するすべての創作物や作品の陰には、人の営みや情熱があることに、改めてビビッドに想像が及ぶきっかけをくれた作品でもありましたね。「NEWS23」もそうであったらいいなと。情熱というのは照れくさい言葉ですが。
実はこのところ仕事の本ばかりで娯楽の本を手に取ることができない状況ですが、私にとって読書は息をつく貴重なツール。そろそろ原田さんの新刊に手を伸ばしたいところです。(聞き手・久田貴志子 写真・篠田英美)=朝日新聞2019年9月18日掲載