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書評家・杉江松恋さんが薦める新刊文庫3冊 特殊設定ミステリーの快作

杉江松恋が薦める文庫この新刊!

  1. 『ブラックバード』 マイケル・フィーゲル著 高橋恭美子訳 ハーパーBOOKS 1290円
  2. 『犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー』 早坂吝著 新潮文庫nex 594円
  3. 『屍人荘の殺人』 今村昌弘著 創元推理文庫 799円

 (1)殺し屋は卵アレルギーだった。マヨネーズ入りのハンバーガーを間違えて出されて激怒した彼は、銃を乱射して店員と客を撃ち殺す。さらにいかなる気まぐれか、現場に居合わせた八歳の少女を連れてその場から逃走したのである。
 マイケル・フィーゲル『ブラックバード』はその少女クリスチャンと、彼女を育て、殺し屋として生きる道を教えこむエディソン・ノースの数奇な人生を描く犯罪小説だ。非情極まりない物語ながら、同時に一人の女性が生きる道を選択して自立するまでを描く成長小説にもなっている点が特徴で、主人公の人物造形に思わず感嘆させられる。

 (2)は人工知能(AI)の名探偵・相以(あい)が活躍するシリーズの第二作である。探偵に対抗する犯人として相以と同時に作られたもう一人の人工知能・以相(いあ)が登場し、挑戦状を叩(たた)きつけてくる。前作『探偵AIのリアル・ディープラーニング』は連作短篇(たんぺん)集だったが、今回は総理大臣の息子が絡む殺人事件が軸となる長篇だ。第一作を併読すると興趣が増すので、ぜひお試しを。

 (3)は二〇一七年に発表され、その年の各種ミステリー・ランキングの首位を独占した話題作である。作中で用いられた特殊設定と謎解きの趣向との取り合わせが斬新で、話題を呼んだ。
 神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と明智恭介は映画研究部の合宿に押し掛け参加する。だが異常事態が発生し、合宿会場は周囲から孤絶してしまうのである。やがて密室状況の部屋で惨殺死体が発見される。知的遊戯の快作だ。=朝日新聞2019年9月28日掲載