- 『光炎の人』(上・下) 木内昇著 角川文庫 各924円
- 『狗賓童子(ぐひんどうじ)の島』 飯嶋和一著 小学館文庫 1210円
- 『魂の沃野』(上・下) 北方謙三著 中公文庫 上770円 下748円
秋の夜長に腰を据えてじっくり味わいたい、読み応え重量級の三作を。
(1)明治30年代。徳島の貧しい煙草(たばこ)農家に育った音三郎は、機械があれば皆が楽になると、技術者になることを決意。しかし時代は動き、科学技術は次第に戦争に使われるように……。
徳島、大阪、東京、満州と音三郎を動かすことで、明治、大正、昭和の激動の時代を活写した本書。技術者の努力で進歩して来た科学を我々はどう使うべきなのか、鋭く問いかける。真摯(しんし)な勉強家だった音三郎の変化にも注目。
(2)大塩平八郎の乱に連座した父の罪により、長男・西村常太郎は日本海に浮かぶ隠岐へ流された。やがて医術を学んだ常太郎は、医師として島民の助けになろうとする。しかし幕末の騒乱は離島にも……。
離島の生活や医療をつぶさに描く筆致は圧巻。だが物語の中核は、尊皇攘夷(じょうい)の気運(きうん)と松江藩や幕府への不満が高じて起きた1868年の「隠岐騒動」だ。政治が変われば民衆は否応(いやおう)なくその影響を受ける。理不尽な施政者に対する民衆の怒りを肌に感じてほしい。
(3)15世紀末に起こり、ほぼ百年にわたって続いた加賀一向一揆。地侍の家に生まれた風谷小十郎は、本願寺宗主の蓮如や守護の富樫政親との奇縁から、闘いに身を投じることになる。
大名の介入を排した「百姓の国」がどのように成立したのか。政治や宗教といった複雑な背景を小十郎の成長に重ね、読者を取り込む手腕は見事。時代の転換期のエネルギーがほとばしる一作だ。=朝日新聞2019年10月12日掲載