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松本白鸚さん「句と絵で綴る 余白の時間」インタビュー 今この時、大切にしたい

松本白鸚さん=倉田貴志撮影

 「絵も俳句も自己流。絵は机や畳の上にうずくまって描きます。カンバスじゃなくて紙ですね。妻がね、僕が絵や句に夢中になっている時が一番楽しそうって言うんですよ」

 歌舞伎やミュージカル、大河ドラマ、映画と活躍してきた。多忙な合間にかきためた句や絵、エッセーなどをまとめたのが本書だ。

 「千年の佛(ほとけ)千回の花役者」。2008年に「勧進帳」の弁慶千回を達成した時に詠んだ。その後、1100回を突破した。1969年の日本初演から主演を続けるミュージカル「ラ・マンチャの男」は「夢の騎士見上ぐる空にあげ雲雀(ひばり)」。息子の松本幸四郎さんや孫の市川染五郎さんについても詠んでいる。絵は、動物や歌舞伎の役などを題材にすっきりした筆遣いで余白を生かして描く。

 本の題も「余白の時間(とき)」。句や絵で人生の余白を味わう気持ちが舞台にも通じる。「汗水垂らして金切り声でという熱演では、余白を作れない。芝居が楽しくて仕方ないという様子をお見せしたいんです。しなやかでやわらかい感じです」と言う。

 10月に上演1300回を突破した「ラ・マンチャの男」のドン・キホーテは持ち役だが、何ともとぼけた雰囲気の醸し方が絶妙で、円熟した人生ののりしろが感じられる。

 77歳になった今年、歌舞伎「一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」で47年ぶりに大蔵卿をつとめるなど、挑戦も続ける。「来年は歌舞伎で初役をやろうかと思っています」と笑う。「僕にとって今、この瞬間が大事。俳句も絵も大切な瞬間をすっと凝結して閉じ込めることだと思う。舞台も二度と同じものはできないから今を大切にしたい」

 取材中、そばで見守る白鴎夫人の笑顔が印象的で、描かれないのですか?と聞くと、「本に入れるのははばかられましたが、描いています」とちょっと照れてみせた。 (文・山根由起子、写真・倉田貴志)=朝日新聞2019年11月30日掲載