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「本当の貧困の話をしよう」書評 説得力もって迫る連鎖の構造

評者: 寺尾紗穂 / 朝⽇新聞掲載:2019年12月21日
本当の貧困の話をしよう 未来を変える方程式 著者:石井光太 出版社:文藝春秋 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784163911038
発売⽇: 2019/09/27
サイズ: 21cm/255p

本当の貧困の話をしよう 未来を変える方程式 [著]石井光太

 中高生も読めるように書かれた本書は、すべての大人たちの教科書にもなるだろう。日本の貧困のみえにくさ、世界のスラム、薬物、性、犯罪。貧困と様々な問題がどのように繋がっているのか、大人でもよく分からない真相が、世界各地をめぐった著者の見聞が挟み込まれることで、説得力をもって読む者に迫る。
 考えさせられるのは、児童労働を無くそうと活動するNPOが、違法労働をさせていた工場から子供たちを解放したことで、一家の生活が成り立たなくなり、父親は出稼ぎへ、子供たちは養護施設に送られたがそこから逃げ、工場は閉鎖したため、マフィアのようなグループの下で違法な仕事を始めたというような顛末だ。現場で当事者の望みを聞くことから始めなければ、善意はマイナスに働く。しかし、同時に著者は「世界には無関心という名の核ミサイルがいくつも降り注いでいる」とも強調する。彼らは彼らでたくましく生きている、という無関心に連なっていく断定もまた危険だ。少ない知識のみで思考を止めてはならない、と痛感する。第4講「学校じゃ教えないセックスの話」は多くの人に読んでもらいたい。教育関係者は問題をいかに伝えるべきか得るところが多いはずだし、若者にとってはこれから身を守るための材料に、既に足を踏み入れた当事者にとっては自分が置かれた状況をきちんと知り、選択するための手引になるはずだ。
 貧困は多くの犯罪者を生む。彼らは悪人ではないと説く著者の言葉はシンプルだ。「そもそも大半の人たちは親から祝福されて生まれてきている。非行少年だってギャングだってみんな同じだ」。個人の力ではどうにもならない状況、その知られざる風景を見、物語を聞くために足を運んできた著者が手にいれた言葉は、世代を超えて多くの人にやわらかく伝わるだろう。「未来を変える方程式」という副題に負けない、未来を変えうる良書だと思う。
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いしい・こうた 1977年生まれ。作家。貧困、災害、事件をテーマに取材。『遺体』『「鬼畜」の家』『漂流児童』など。