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「大学論を組み替える」書評 内発的な改革への処方箋を示す

評者: 石川健治 / 朝⽇新聞掲載:2019年12月21日
大学論を組み替える 新たな議論のために 著者:広田照幸 出版社:名古屋大学出版会 ジャンル:教育・学習参考書

ISBN: 9784815809676
発売⽇: 2019/10/30
サイズ: 19cm/303,7p

大学論を組み替える 新たな議論のために [著]広田照幸

 英語の民間試験と国語数学の記述式試験の導入の試みは挫折した。それが示唆するのは、昨今の大学改革論議そのものに内在する構造的問題の所在であろう。
 元来、「知それ自体を目的とした場」としての大学は、「目的論的でない反省が制度化された唯一の制度」(R・コーワン)である。しかも「第一線大学教員」は、そうした所属大学よりも、世界に広がる外部的な「アカデミック・コミュニティ」の一員として、「学術のための学術」に奉仕している。そして、単に「社会のための学術」だけでない知のあり方が、「特定の目的=有用性からいったん距離をとること」を可能にし、結果的には時空を超えた有用性や汎用性のある知識を学生に獲得させる。
 他の社会制度や組織や学校と一線を画するこうした意識が、専門学校や単科大学の「寄せ集めで発足した」戦後の多くの国公立大学や、「施設も人も不十分な中で出発した私立大学」が、旧帝国大学に伍して、「何十年かの間に、図書館や研究施設を充実させ、研究体制を作っていった」。憲法上の「大学の自治」「学問の自由」が保障するのは、そうした大学や大学人のあり方にほかならなかった。
 ところが、90年代以降、こうした「規範や価値や信念や物語」に対抗するネオ・リベラルの「改革」論議が、研究・教育を一番よく知る内部者の声を、「既得権」として封じ込める。大学改革や入試改革は、もっぱら外部者により、文脈の違う国からの「政策借用」の形で行われ、それを遂行すべくトップダウン型に組織を再編した。その限界が露呈してきているのではないか。
 本書が提示するのは、「シニシズム」に陥らず、トップダウンとボトムアップのバランスをとり、研究・教育の内発的な改革(「内部質保証」)を行うための処方箋だ。そこに示された「学生の教育に関する理論や語彙」を学ぶことが、今後の生産的な大学論議のための前提条件になるだろう。
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 ひろた・てるゆき 1959年生まれ。日本大教授(教育学)。著書に『陸軍将校の教育社会史』『教育は何をなすべきか』。