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「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」 安心感で解きほぐされる虚勢

 元SDN48大木亜希子の“実録”私小説『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』の破壊力がすごい。

 主人公は28歳会社員アキコ。得意先に聞かれもしないのに「元アイドル」と明かしてしまう。SNSでは虚勢を張るが実際は風呂なしアパート住まい。“適齢期”で結婚するため、恋人候補の男性の手札を増やす「ノルマ飯」でぎっしりのスケジュール帳が心の支えだ。

 そんなある日、地下鉄のホームで突然足が動かなくなってしまう。心療内科にかかり、仕事も辞めざるを得なくなった彼女が選んだのは、赤の他人ササポン(50代男性)とのルームシェアだった。

 恋人でも家族でもない奇妙な同居生活だが、「家に誰かがいる」という安心感に徐々に癒やされていくアキコ。何よりも、年齢も価値観も違うササポンの助言は、「アラサーの未婚」「いい歳(とし)をしながら」と内面化されたセクシズムでがんじがらめになった彼女を解きほぐしていく。この執筆が、著者自身に救いをもたらしていればと願う。(板垣麻衣子)=朝日新聞2019年12月21日掲載