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紙木織々「弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで」 蘇るゲームと主人公の再起

 「IT促進法」により、部活動を通じたゲーム開発が盛んに行われている現代日本。東京の有名なソーシャルゲーム部に所属していた主人公・白析解(しらせきかい)は、とある事情から退部に追い込まれ、逃げるように姉の住む新潟に引っ越す。ところが転校した先の命薫高校にも弱小だがソシャゲ部が存在し、しかもお約束通りに廃部の危機に瀕(ひん)していた。衝動的に入部を決めた解は、変人ぞろいのメンバーと、再びゲーム製作に挑む……。

 『弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで』はオーバーラップ文庫の新人賞、第6回オーバーラップ文庫大賞・金賞を受賞した紙木織々(しきおりおり)のデビュー作。ゲーム開発を描いたライトノベルには丸戸史明『冴(さ)えない彼女(ヒロイン)の育てかた』(ファンタジア文庫)など多くの人気作があり、ソーシャルゲームに限っても、いくつか先行作を挙げることができる。そんななかで本作の独自性はシナリオやグラフィック、プログラムの製作といった工程でなく、ゲームが一度は完成した後を描いた点。コンシューマーゲームの多くは、発売日を迎えれば製作はいったん、一区切り。だが、ソーシャルゲームでは、むしろそこからが本番だ。定期的に新コンテンツを追加し、ゲームを改善し、不具合を修正し……と、ユーザーに長くゲームを遊んでもらう必要がある。そうしたソーシャルゲームにおける「運営」が本作のテーマだ。

 KPI、DAUといった専門用語を交えつつ解説されるソーシャルゲーム運営の内側。不出来な作品をリリースしてしまったからといって、ユーザーがいる限り簡単にやめることもできず、時に、心ない批判に耐えながらも続けていかなければならない。そう聞くとつらいことばかりに思えるが、逆に考えれば、失敗しても挽回(ばんかい)するチャンスが残されているとも言える。一度は大きくつまずいたゲームを運営により蘇(よみが)えらせていく過程と、道を断たれた主人公が、新たな場所で再起を果たす王道のプロットが共鳴し、題材ならではの爽やかな青春小説になっている。

 一冊だけでも十分読み応えのあるデビュー作だが、だからといってそこで終わらないのがソーシャルゲームというもの。次はどんな試練がソシャゲ部の面々に降りかかるのか、続刊も楽しみにしている。(ライター)=朝日新聞2020年1月18日掲載