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川崎悟司「カメの甲羅はあばら骨」 生き残りを賭けた試行錯誤

 とにかく表紙のイラストが目を引く。けれど、売れている理由が最初はわからなかった。

 いろんな動物の特徴的な身体。人間なら骨格や筋肉をどう変えれば、その動物と同じになるのかを絵で表現している。カメの甲羅のことも、イヌがつま先立ちしていることも知識としてはあったが、イメージしにくかった。それが、不気味とも思える絵で疑問が次々に解かれていく。わかりやすい。

 それだけに、絵を確かめるなら立ち読みで済みそうだ(本屋さん、ごめんなさい)。

 絵と合わせて読む説明がポイントかも知れない。速く走るのに適した骨格、空を飛ぶのに必要な筋肉、地面に穴を掘るのに適した体つき。動物の生態に適した合理的な体つきの解説があって、「改造人間」の理解が深まる。読みながら、手首を回してみたり、背伸びをしてみたり、口を大きく開けたくなる。試してみてはうなずく。

 小さな驚きも楽しい。カバが陸上を走る速度は時速40キロにも達するという。見た目で判断してはいけない。コアラの子どもはユーカリの葉を分解する腸内細菌を譲り受けるために母親のウンチを食べる。近年、注目の「便微生物移植」の仕組みだ。

 長い脚で内陸をすたすた歩いていた「ワニ」、3トンもあった巨大な「ナマケモノ」。滅びた動物との形態の比較は、環境に適応した進化を考えさせる。

 そんないくつもの仕掛けに、立ち読みでは堪能できず、レジに向かうのかも知れない。

 本書はSNSでも話題になっているから、ネットでさわりを見てたまらずにポチッと買う人も多いのだろう。

 出版物の販売が苦戦するなか、注目されるには工夫が必要。ヒットした『ざんねんないきもの事典』や『わけあって絶滅しました。』シリーズ、生きもの系から学べることは多い。

 新聞社もどうすれば記事が読まれるか必死に考え、工夫し、試行錯誤を続ける。環境に適応しなければ滅びてしまう。=朝日新聞2020年2月15日掲載

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 SBビジュアル新書・1100円=5刷2万2千部。19年12月刊行。イラストレーターである著者のツイッターを通じて拡散。「表紙のインパクトも大きかった」と担当編集者。