もともと心臓外科医を目指していた私が、整形外科のスポーツドクターになったのは、自分のケガがきっかけでした。子どもの頃からスポーツが大好きで、医学生時代はラグビーをしていたのですが、最終学年の夏に中足骨を疲労骨折してしまったのです。なかなか治らないのが我慢できず、自己判断で練習に復帰したら再骨折してしまい、結局、大学最後の試合に出られず悔しい思いをしました。ただ、ラグビーができなかった間、猛勉強したことで、難易度の高い聖路加国際病院の採用試験に受かったのです。この失敗体験と成功体験を活かせる仕事をしたいと思い、今の仕事に就きました。
現在は、病院で診察や手術をする一方で、ラグビー日本代表チームをはじめとしたさまざまなスポーツチームのドクターとしてかかわっています。その知識と経験を子どもの育成にも活かしてほしいと思い、保護者やスポーツ指導者に向けた講演活動もしています。そのたびに、「参考になる話がたくさんありました」という声が多く寄せられるので、正しい知識をより多くの方に知ってもらうために、『子どもの健全な成長のための スポーツのすすめ』という本にまとめたのです。
本書の内容は、運動が肉体面と精神面に与える効用や、運動と学力の関係、昔の古い常識と先端科学にもとづいた今の常識の違い、家庭でできる子どもの心身のサポートなど、盛りだくさんです。ただ、私にもスポーツをしている息子が二人いますが、子どもは親が言うことをすぐには聞き入れません。でも、たとえば10のポイントのうち2つの、筋力トレーニングとその直後の栄養補給だけでもしてくれれば、そのうち自分から他のこともやるようになっていくものです。
成長期の子どもは特にタンパク質の摂取が大切です。しかし、トレーニングのあと空腹のまま後片付けやミーティングなどをしていると、エネルギー不足のまま時間が経過し、その結果疲労がたまってケガにつながりやすくなります。部活のルールで練習直後すぐに栄養補給できない場合は、水筒に糖質を含んだプロテインを入れていつでも飲めるようにするなど、親がひと工夫してあげることも必要です。
運動神経の能力は小学校中学年までに約8割程度も開発されて、12歳までのゴールデンエイジに完成するとされています。子どもの頃にたくさん運動した人は骨が強くなり、大人になってから骨粗鬆症になりにくくなります。毎日の30分程度の有酸素運動が、記憶力や認知運動を改善し、問題解決能力も上がることも、欧米の研究で明らかになっています。ユネスコは「運動不足は喫煙よりも健康に悪い」と提言しているほどです。
最近は、運動よりスマホやゲームが好きな子も増えているので、そういうお子さんとはお部屋で一緒に筋トレするといいと思います。筋トレをすると成長ホルモンが増え、また大人にとってもメリットがありますから、私も息子たちと自宅でトレーニングしています。
最後にもうひとつ。ケガをして大好きなスポーツができないお子さんがいたら、ぜひ勉強を頑張るように言ってあげてください。ケガを治している間に成績も上がれば、子どもにとって大きな自信になり次の飛躍につながります。運動もしながら未来の可能性に向かって気持ちが前向きになるように、親御さんや周りの大人たちが導いて支えてあげてほしいですね。